『シン・ニホン』 安宅和人著 〜書評〜【上】

 今回は『シン・ニホン』安宅和人著を読了したので、その書評を執筆します。私は基本的に「1つの書籍から大きく分けて6つのことを学ぶ(最近5→6に変更)」をマイルールに課しているので、今回の『シン・ニホン』からも私が大切だと感じた6つの事柄を抽出し、著者の安宅先生の主張を説明した後に、私の意見を述べる形式で展開していきます。

『シン・ニホン』安宅和人著 購入ページ

 私の批評全てをこの1記事に書くと読者の方が読みにくいと思いますので、【上】【中】【下】に分割して執筆する予定です。しかしその分、今回1記事当たりの文字数は極限まで短縮しています。今回は6つのうち2つのポイントを解説し、それらの中身について私の意見を記します。自明な事ですが、この書評を読んだからと言って『シン・ニホン』の全容が把握できる訳ではありません。紙幅や読者の方々のことを考慮すると、私に説明できるのは、本書において私が「面白いなぁ」と感じたほんの一部分に過ぎません。YouTubeなどの動画サービスでも書評や書籍紹介が行われていますが、個人的には、書籍の全容やその本質的価値を理解する為には全て読破すべきだと思います。そして「コンテンツのひとつまみだけで満足しない」ということ自体も、この『シン・ニホン』で語られている内容なのです。しかし、この書評を【上】〜【下】まで拝読すれば「シン・ニホンを読みたい!」と思うことは間違いないでしょう(自分で言っちゃいます)。

 では始めましょう。


『シン・ニホン』はなぜ生まれたのか?

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 今回紹介する3つのポイントに入る前に、『シン・ニホン』という書籍そのものに対する評価と、なぜ本書籍が刊行されるに至ったのかという経緯を簡略的にまとめてお伝えします。

 この書籍はNewsPicks Publishingからの出版で、表紙デザイン並びに内装デザインが非常に綺麗に装丁されています。手に取る前から「この本カッコイイ。スタバで読みたい」と心躍る気分になること間違いなしのデザインとなっております。全430ページ以上に亘る長編で、現代の日本社会の全体像並びに、将来的に日本が目指すべき道筋を明確に提案してくれている著作です。※ ちなみに「シン・ニホン」は、非常に有名な映画「シン・ゴジラ」を安宅先生がもじったものらしいです。

 安宅さんが本書を創刊した理由を、私が安宅さんになりきって説明すると…
「2019年現在の日本では、『日本はヤバい』『俺たちにもう未来はない』などの悲観論や黄昏感が満ち溢れていて、現実の課題や問題に向き合わない断片的な批判が横行し、建設的な議論が行われていない。しかし、私たちは未来世代に不安だけを残して良いのか。そうではないだろう。このまま現実から逃避し、危機感だけを未来に残すべきでは絶対にないのだ。激動の時代を生き抜く私たちは、刻一刻と動く変数に振り回されず、自ら主導権を握り、希望ある未来を構築していくべきである。実際、今起きている変化は構造的なものが多く、今までの慣習だけに浸る私たち人間には容易に理解できない部分が多い。しかし、意外と気付いてしまえば理解できる変化が多く、直視されていないだけの課題も多い。そう考えていた矢先、ある編集者の方に「2016年のTED×Tokyoで安宅さんが生み出したシン・ニホンは絶対にまとめて本にすべきです」と力説され、夜中にそうしようと決意した。僕らは少しでもマシなバトンを次の世代に渡すべきであり、自分たち自身で新未来を創造する為にも、私が普段行わない専門領域にも首を突っ込んで本書を書き起こした。」
となります。笑 頑張ってなりきりました。

 この説明で本書が創刊された理由の大半は理解できたと思いますが、要は、悲観的に日本の現実を見るだけでなく、自ら主導権を握って新しい未来を創造しようという事です。そしてその指針、ロールモデルとなる提案を安宅さんが「専門領域以外の分野も交えて」紹介してくれているという書籍です。本書を読めば理解できると思いますが、安宅さんの熱量が文章から滲み出て伝わってきます。冗談を抜きにして、私は前半部分で1度泣きました。実際は読了してから3週間以上経過しているのですが、拝読中に、安宅さんが持つ見識の豊富さと、それに伴う対案の素晴らしさを痛感し、いてもたってもいられない気分になったのを鮮明に覚えています。『シン・ニホン』は令和時代に全国民が読むべき書籍トップ5には絶対にランクインするでしょう。

 では、本書の概要が大体把握出来たところで、早速、私が気になった最初の2つのポイントを見ていきましょう。

歴史的な革新期 〜人類は再び解き放たれる〜

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 もうゲームチェンジは始まっている。本書は、GAFA筆頭、Google社の開発したAlpha Goが、魔王と呼ばれる韓国の棋士「イ・セドル」に勝利した場面や、世界最強棋士と呼び声の高い「カ・キツ」を圧倒した状況を交え、現在進行形で起きているAIの進化がどれ程スピーディかを主張しています。更に、画像認識や映像認識技術の向上に加え、デザイナーズベイビーを創造する事すらも実現可能になりつつある現代の高度化した社会を織り交ぜ、人類の進化と技術の進化が体系的に説明されています。AI × データの時代は物事が常に「指数関数的」に変化し、進化スピードが「1+1」の時代はもう終わりを告げたと語れており、5年や10年経つと数倍に変容するのではなく、1桁2桁以上も変化する可能性が高いとも云っています。

 そんな激流の真っ只中、一人の人間が産出可能なアウトプットの総和は劇的に向上し、より一層一個人当たりのスケール感が増幅した社会が訪れています。本書が紹介している、カリフォルニア大学のある人物が過去100万年における人類の生産性の推移を調査した統計結果によると、ローマ時代と呼ばれた2000年前から200~300年前の産業革命が訪れるまで、人類の生産性は2倍程度しか変化していないが、産業革命以降の現代に至る200年の間で約50〜100倍まで上昇しているという事実が示唆されています。加えて、安宅先生は、今後数十年間で我々の生産性向上値がもう一段跳ね上がる瞬間を、私達は生きていると云います。
※本著は多数の図やグラフを用いた説明が為されており、直感的に理解しやすい構成なので、上述した話もぜひ本書を購入して「図解的に」理解して頂きたいです。

 この安宅先生の意見には心から同感で、過去の牧畜や農業、第一次産業がブームだった時代では「等比級数的(一定増加的)」な進化しか遂げる事の出来なかった人類が、産業革命以来、工場製機械工業による財の大量生産が可能となり、異空間の同時接続を可能にしたネットワークコミュニケーションによって生産性を向上させ、「指数関数的」な生産活動を現実にしてきた歴史を鑑みれば、その考察・予見は明らかに的を射ていると言えるでしょう。

 そして、1つ目のポイントを交えた私見として、前述した様な「指数関数的価値創造」における重要ファクターは「空間越境性」と「時間短縮効果」であると感じています。空間越境性に関しては、端的に、現代は異空間・異人種の人々が混在する雑多な空間が、ネットワークシステムの開発によって実現可能となり、自動翻訳機能や非言語コミュニケーションの手法が発達した事で、生来の遺伝的差異や言語的差異を越境した共同的価値創造が可能になっており、1つのアイデアや発想に賛同し、繋がり合って協働出来る人々の総数が過去と比較して比べ物にならないくらい多いからです。

 2つ目の時間短縮効果は、空間越境性により、科学技術によって移動コストが極限まで短縮され、世界規模での情報共有やイノベーション、革新を生み出す際の時間短縮効果が発生したからであり、先ほど述べた様な偶有性・偶発性によって生じた個々人のアイデアが、空間的越境性を基に、従来より遥かに短縮された時間で世界に共有できる事によって、その爆発的進化の加速が助長されていると言えるからです。

 加えて現代は、対象物をAIが処理できるスピードも日に日に上昇しているので、アイデアを形にする際の「ダウンロード時間(機械的な実装時間)」が短縮出来ているという側面も、今後更にビッグな指数関数的変化が訪れる、大きな要因になるでしょう。本書指摘の通り、現在の人類が手にしているペンシルは、極めて壮大な世界を描く事のできる筆で、その書くスピードも年々上昇しており、既存知では予測不可能な革新的変容が社会にもたらされる日は近いと言えます。Apple社が開発するiPhoneの進化が鈍化し、最終的にはカメラ性能に比重を置いている状況も交えると、「手で持つスマホ」という基本的概念すら飛び越えた高性能のデバイスないしソフトウェアが、近々にどこかのIT企業から開発される可能性は、本書的な文脈で俯瞰して考えても、大いにあり得る事なのです。

埋もれたままの3つの才能

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 本書は、まだまだ日本には埋もれた才能と情熱があると主張します。それはすなわち、若者(若い才能)と女性、シニアです。これら3つについて、本書は以下の様に語ります。

 第1の「若者」に関して、日本では、2017年の段階で、単身を除く、約3世帯に1世帯の割合で貯蓄を有していない(貯金が無い)というデータがあり、かつての高度経済成長期を知る安宅さんからすれば、日本は既に途上国・中進国に戻ってしまったという事実があります。いわば、貧困層が拡大しているのです。本書はその要因に「仕事をしない高齢者数の増加」と同時に「最低賃金の低下」を挙げています。特に現在の日本の労働者の賃金に関する統計を見ると、最低賃金付近に集まっている労働者の数が非常に多く、弱者をより一層犠牲にする構図になっています。それこそが、本書で「少なくと1/3程度の才能と情熱がシンプルな環境要因によって発揮されず、埋もれている」と語られている要因なのです。この状況が継続すれば、2035年前後には先程の「貯蓄なし世帯」が国の50%を占め、見事に後進国に陥ってしまいます。

 それに対し安宅さんは「①最低賃金の見直し」「②働けて、やる気のある人にどんどんスキルを身に付けられる環境を用意すること」「③環境に恵まれない子供達を高等教育までサポートする仕組み」を対応策として挙げています。また、巷で謳われている「Nature or Nuture問題」的な、生まれと育ちはどちらが大切かという議論にも本質的に意味がなく「人間の能力は才能・環境の双方によって決定される」と安宅さんは主張します。現在は、先ほど述べた通り3割程度の才能が埋もれており、それを解放することによる国家的メリットは多大だと云います。

 第2の「女性」については、OECDの調査によると、日本人男性の家事・育児労働時間はたったの41分/日であり、男性の育児・家事参加率が異様に低いことが本書で指摘されています。それはつまり、日本人男性は女性に家事を任せっきりであると言えます。しかし本書は、男性の育児協力により時間が生まれ、女性が活躍し始めれば、女性が生み出すキャパシティは3割以上増えると云います。更に、日本では、対外的な数値を比較しても、上層部(リーダー層)における女性比率が圧倒的に少なく、経団連や国会議員に占める女性の割合も低数値になっています。安宅先生はアイビーリーグが女性比率を増やした事実などを交え、日本も東京大学を筆頭により一層女性比率を改善すべきだと云います。

 第3の「シニア」に対しては、日本の定年退職制度という不自然なシステムに対する疑問を投げかけつつ、リンダグラットン著『LIFE SHIFT』で示唆されている様な「人生100年時代」を見据え、働く事のできる元気なシニア層をもっと支援すべきだと本書は主張します。シニア層は人生経験や知的体験が若者より多い蓋然性が高く、生産年齢人口を従来の15歳〜65歳に限定せずに、より広域な範囲で認めることができれば、労働者の総数自体が増大し、国力を高める事に直結すると云います。そして安宅さん視点の「企業のこれからすべき事」は、①採用時に性別・年齢を問わず、②時間ベースではなく生産性ベースで対価を支払い、③週何日働くという指定をしない事などが提案されています。

 私みやびが3つの意見で特に共鳴するのがシニア層についての話で、例えばカーネルサンダースやピカソを見れば明示的ですが、人は何歳でも活気ある行動が出来る生き物なのです。年を重ねるからこそ自分に蓄えられる経験量や知識量が増加するので、企業目線で言えば、顧客の様々な視点を包括的に把握できたり、緊急時の対応方法などの企業にとって必須の事柄も、場数を踏んできた人が所属していた方が有利に働く側面があります。確かに、全く意欲がなく、定年退職を待ちわびている人を無理矢理にでも雇用する事は意味がありませんが、積極的で活力的なシニア層の方々ならば、企業側としても非常に有益な労働力となるでしょう。

 加えて、若者の才能に関しては、今後、社会の中核を担うであろうデジタルネイティブ世代の才能が埋もれてしまっている事は非常に残念です。昨今のSNSの投稿を見ても、やはり今も「お金がなくて大学に行けない」という人は多く、未来を担う世代に順当なお金が分配されていない事は、「シン・ニホン」を創造する上で大いなる痛手となり得ます。

 若い才能に関する私の対案としては、ベーシックインカム的な制度の導入を検討すべきだと思います。あるいは、自分自身がN高等学校という高校に通っていた経験を踏まえてミクロ的に小中高生に助言するなら、「あえてネット通信型の学校に通い、学費を抑えつつ、余剰のお金で好きな事に投資しまくる」ことは意外と、体験した身としては必要かなと思ったりします。私は高校1年の頃から現在(大学1回生)まで大量の本を読破してきましたが、本を読む為のお金を得れたのは「通信制の高校に在籍する事で学費を抑えれたから」という要因が大きかったりします。実際今では、オンライン授業でも良質なコンテンツが豊富に整備されている状況なので、自発的に学ぶ意欲さえあれば可能だと思います。なので、若者の将来のために順当な分配システムを構築するというマクロ的視点と、若者自身が自発的に学びの選択肢を多様化するというミクロ的視点の双方を折衷していく事が肝要なのではないかと思います。


 今回は2つのポイントを紹介しました。「現代は歴史的な革新」であること、そして「まだまだ日本には才能が埋もれている」の2つです。書評を書きながら『シン・ニホン』を読み直していると、安宅さん含め有識者の方々、著作を発表している企業経営の関係者は非常に「論文や調査結果を引用する」のに長けているなぁと本当に敬服します。

 では、本記事はここまでです。

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。