『シン・ニホン』 安宅和人著 〜書評〜【下】

 今回は『シン・ニホン/安宅和人著』の書評ラストになります。

【上】と【中】はこちら↓

『シン・ニホン』-安宅和人著-〜書評〜【上】
『シン・ニホン』-安宅和人著-〜書評〜【中】

 前回同様、今回のラスト書評記事でも、本書で気になった2つのポイントを要約して取り上げ、それについての私の意見を記していきます。(前回、前々回よりも読み易くする為、要約も短く、意見も短めにしました!)

 では、今回の書評にいきましょう。

不確実な未来にいかに対処するか

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 未来は誰にも予測できない。人工生命という分野で、コンピューター上でモデリングされた生命がいて、その生命がどの様に生きていくかを観察する実験がある。その種が突然変異する可能性もあれば、捕食関係性を形成する蓋然性も高い。いわば、生命の歩みをコンピューター上で仮想実現する興味深い分野である。

 ある教育番組で、コンピューター上に生命を何種類か生成し、それらが以後、どの様に進化・変容していくかを観察するフッテージ(一場面)があった。その結果、初期値やモデリングが完全に同じ生命でも、毎回違う結果になったのだ。つまり、この世の中で全く同じ結果は二度と起こらないのである。

 これはコンピューティング上の話だが、我々の生きている地球世界では、より一層変化の波が激しい故に、ますます二度と同じ変化は起こらない。その番組の出演者の一人が「これって、地球の歴史が繰り返されたとしても、二度と同じ人類はうみだされないということですよね?」と問うていた。その通りだ。それこそが不確実性の時代だ。

 当然、大枠の予測は可能なのだが、AppleがiPodを発明した様な特異的変化はそう簡単には予測できない。この事実に際し、不確実性には「4つのレベル」がある。

Level.1 確実に見通せる未来 ex)春がきて夏が来る。人口推移。トレンド。
Level.2 他の可能性もある未来 ex)地政学的国家競争(米中ハイテク戦争など)。
Level.3 可能性の範囲が見えている未来 ex)新規商材の導入効果を予測する。
Level.4 全く読めない未来 ex)何もかも予測不可能な事態。

 そして、この4つの不確実性レベルに対応する為には、イニシアチブ・ポートフォリオという思考フレーム(3つ)が有用だ。

1.「形成」自ら未来を創造する。
2.  未来に「適応」する。
3.「プレー権」を確保する。

 すなわち、完全に未来を予測することが不可能な時代において、自分たちは何を仕掛けるべきなのかを明確に策定し、戦略的に望ましい帰結を生み出し得る状況を作る為に、どの様な仕掛けをすべきかをポートフォリオ化して考える必要がある。そして、その仕掛けは大別して❶コアスキルの展開、❷新規事業の構築、❸事業ポートフォリオの改変、❹組織としてのインフラづくりになるだろう。

 今述べた様に、不確実性の時代には従来型の静的な市場構造の維持は望めず、目紛しく変化し続ける社会を受容し、変化に備えて柔軟に対応できる姿勢を醸成する事が肝要になる。近々のインシデント、あるいは過ぎ去った過去の出来事だけを問題視するだけでなく、中長期的なスパンでの視座が必要になる。

〜miyabiの意見〜

 要は、企業体としても個人体としても、急激に変容する市場や科学技術に即した柔軟な対応が必要になるという事でしょう。これからは大企業も、日本的経営と呼称される「終身雇用制」「年功序列型賃金制」的な枠組みをドラスティックに除去する必要があります。今現在重宝されている計算機科学の分野での人材も、近い内に全く異なる分野での需要を生み出し、その新しい分野がメインストリームになる可能性が極めて高い世の中です。

 予測不可能な市場を分析する点、それを段階的に分割し、一つひとつを詳細に解説している点は本書の素晴らしい部分です。問題解決のプロフェッショナルが集うマッキンゼーでの勤務経験がある安宅先生だからこそ描ける「分析マップ」でしょう。

 もう一つ、人工生命分野で行われた生命のコンピュータ上での実装実験は非常に面白いですね。いわば、私たちが現在生きている世界はどれだけ再装しようとしても不可能だし、タイムスリップして全く同じ進化を遂げても、全く同じ未来にはならないという事ですから。それを心得た上で、日本の若者は未来を築くべきでしょう。本書の指摘通り、未来が予測できる範囲は非常に限定的です。なので無理に、未来を予測できてからしか行動出来ないなどと思う必要はなく、今目の前のことに全力で取り組んだ先にこそ、まだ見えない新たな未来が開てくるのだと思います。

新たなテクノロジーと持続可能な世界

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 現状のエネルギー使用量や電力消費のペースが今後も維持されれば、この地球がもたない事は明白である。それを改善する為には、一見異質な目標だと見なされているSDGsとSociety5.0をアラインする折衷型政策の導入が必要だ。環境・資源・貧困・性別を取り巻く不平等性を訴えるSDGsと、経団連・経済産業省が唱えるSociety5.0を掛け合わせるのだ。

 まず、SDGs17の目標は大枠で3つに分けられる。
才能と情熱を解き放つ系 ex)貧困ゼロ化。健康・福祉の増進。質の高い教育。
②持続可能な空間を作る ex)エネルギーのクリーン化。気候変動への具体的対策。
③力と方法を持つ系 ex)産業と技術革新の基盤を養成する。

 Society5.0の社会で産出される電力消費量の総和、深層学習の進展に随伴した計算量の増大は既に目を背けられないレベルに肥大化している。著名な科学専門誌『Nature』によれば、2007年に50EBだった世界のインターネットグラフィック量は、2017年には1.1ZB(22倍)に跳ね上がっている。

 しかし、社会発展を創発する為にはSociety5.0が必要であり、同時に定性的なSDGsの取り組みを行う事も必要になる。よって、日本はこれら双方の「交点」を狙うべきである。そして、世間で叫ばれる「人口減少の悲劇」についても基本的には悲観視しすぎない方が良い。CO2問題も同様だが、例えば約150年前までの江戸時代は1700年以降、約3000万人の人口で一定しており、その中でも人類はしっかりと生存していた。加えて、その程度の人口まで数世紀規模で現状の人口が減少したとしても、CO2排出量がその分かなり削減されるので、将来的には望ましいとも言える。

 ある研究によれば、人類はかつて、2000人前後までに人口が減り、絶滅に瀕する危機を経験した事もあるそうだ。その末裔である我々が現代の人口減少に乗り越えられないとは考え難い。歴史的に考察しても、中世では人口減少こそが産業革命を生み出したとも言われている。『ホモデウス/ユヴァル・ノア・ハラリ』の指摘通り、人類は飢餓・疫病・戦争の三大死因幾度となく乗り越えてきたのである。天然痘や黒死病、スペイン風邪やペスト、人類は多数の病を乗り越えてきたのだ。

〜miyabiの意見〜

 実はこの部分は、私が本書を読んだ理由の1つに該当します。要は、SDGsやSociety5.0という国家規模の大々的な目標設定が、この人口減少社会に本当に機能し得るのかを知りたかったのです。答えとしては予想通り「Yes」でした。SDGsで多様な社会を実現すべく、社会的な障壁を殲滅しながら、Society5.0でより一層発展的な社会を形成していく。交点を作るという思想、素晴らしいです。

 今後、私が書評で紹介する予定の『FACTFULNESS』というベストセラー本があり、その中でも鮮明に描き出されていますが、昨今のメディアや報道機関は、自社の数字の為に人々に「不安を煽る」のです。人間は元来、成功より失敗に反応しやすく、喜びより不安を重視する生き物ですから、その方が報道側としては視聴レートが獲得しやすいのです。世界中の飢餓の数、貧困世帯・人口の数は減少しているにも関わらず、あたかも飢餓や貧困改善が遅れているかの様に放送するのです。

 しかし、本書が指摘する通り、人口減少に過度な不安を寄せる必要はなく、かといって極度に楽観視する事もなく、歴史的な人類の進化を紐解き、その中から応用できそうな納得解を用意する必要があるのです。

 本書は統計データ・数値化に重きを置いて構成されている著作ですので、ファクトベースで物事を議論したい人にはうってつけです。「成長する企業・組織は必ず数字やファクトを重要視する」と言われて久しいですが、そうしなければ生き残れない時代を、もう既に我々は生きているのです。


 気になった方は是非本書を手に取って、日本社会の概観とその未来を追体験してみてください。

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。