『シン・ニホン』 安宅和人著 〜書評〜【中】

 今回の【中】も『シン・ニホン』からも私が大切だと感じた2つの事柄を抽出し、著者の安宅先生の主張を説明した後に、私の意見を述べる形式で展開していきます。下記に前回の【上】、『シン・ニホン』amazonページを記載しています。

[前回記事]
『シン・ニホン』 安宅和人著 〜書評〜【上】

 前回同様、今回の記事では、本書で私が気になったポイントを要約して取り上げ、それについての意見を記していきます。

 では、今回の書評に参りましょう。

①弱まる日本の大学のプレゼンス

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 2016年、急激な勃興を露呈する中国が論文数で世界一に。その裏腹で、日本はインドに論文数を抜き去られ、「論文のインパクト」という観点ではお隣の韓国に近々まで迫られている状況になっています。「インド対日本」の構図においては、日本は嘗てから多分な論文の蓄積があり、GDPもインドの2倍以上を保持していたにも拘らず、劇的な凋落を見せています。「韓国対日本」の構図については、韓国は日本より合計特殊出生率が圧倒的に少なく、総人口が1/2.5程度だという事実があるにも拘らず、日本に近しい段階まで進化を遂げています。

 これらの事実は、過去10年間で変容した日本の大学のプレゼンスを示唆する具体例であり、国家的なキーフラッグである東京大学、京都大学ですらも、隆盛している中国・シンガポールの大学群に抜き去られている実情があるのです。嘗ては、かの有名なイギリスの『Times Higher Education』の世界大学ランキングでも、MITやアイビーリーグの近辺に位置し、世界的プレゼンスを誇った日本の大学が対外的に衰弱しているのです。

 本書の指摘では、その傾向は特に「計算機科学」という、今世界を一新している科学分野において顕著だと言われています。計算機科学とは、情報と計算の理論的基礎、並びにコンピュータ上への実装と応用に関する研究分野であり、今世界中で注目を浴びています。その分野を対象にしたランキングでプレゼンスを確保できていない状況は極めて危険です。あの東京大学でも135位に位置し、トップ100にランクイン出来ていないのです。そしてこの分野では中国の清華大学が圧倒的存在感を誇り、シンガポールや米国の大学が上位にランクインしています。

 湯川秀樹博士に代表されるノーベル物理学賞を思い返せば理解できますが、日本は物理学分野では未だプレゼンスを保っています。しかし、やはり計算機科学の分野が今後は重要で、著者の安宅さんは「他の分野の様に才能とリソースが流れ込んでいない」と指摘します。ちゃんとやろうと。専門家層の分厚さをより増進して、日本の大学のプレゼンスを保とうと高唱します。

〜miyabiの意見〜

 私の意見としては、自分自身理系分野の専門家ではないので込み入った話は出来ませんが、シンプルにこの事実は不安でしかありません。中国では、国家を挙げて「中国製造2025」を声高に掲げ、次世代情報技術や新エネルギー車など、10の重点的分野と23の品目を設定し、製造業の高度化が目指されています。

 加えて、シンガポールでは1980年代から開始されたIT政策において、IT活用力の向上が推進され、同国は20年程度で世界最先端の情報社会となりました。更に、21世紀に突入しても「電子政府」を積極的に進展させ,2006年には新たなる10年計画「iN2015」を国家規模で策定し、情報通信技術を利活用した先進的取り組みが行われました。アジアはもうこのくらい前進しているのです。

 世界的な進歩度の比較のみならず、既に日本は、東アジア圏での争いにも敗れている蓋然性が高いのです。今、私が大学で受けている講義の中で「タイタニック現実主義」という言葉が登場した場面がありました。それは「なぜタイタニックが沈没したのか」を象徴する文言で、当時のタイタニック号に関しては、方々で「この大型旅客機が氷山に衝突する事など非現実的である。仮に衝突しても沈没する事はない」という論説が罷り通っており、乗客や船長など皆が「自分の都合の良いことだけにスポットを当てていた」のです。それ故に、衝突時の対応が遅れ、乗客全員を巻き込む大騒動と化してしまったのです。

 なぜタイタニック号の悲劇を例に出したかと言うと、これは現在の日本にも適応できる話だからです。例えば、現在話題奮闘中のCovid-19に関しても、その感染症以外でも語られるべき、報道されるべき事実や出来事は世界で多々起こっているにも拘らず、マスメディアの数字至上主義や大衆向けという名の元に、Covid-19に限った情報ばかりがネット上に氾濫しています。yahoo newsやline news、どれを閲覧しても画面一杯に表示されるのはCovid-19に関するインフォメーションばかり。しかしそれ以上に、アフターコロナの世界を考える為に必要な「大学の研究結果」や「日本の様々な学問分野を対外的に見た場合の立ち位置」など、もっと報道すべき事は多々あるでしょう。

 「そんな事はお偉いさんや知識人の内輪で行ってくれれば良いじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、そうではないのです。幕末から明治維新に至る日本人の団結によって生まれた躍進・列強参入や、それ以前の時代に垣間見えた「一国を統一する難度」を鑑みれば理解できますが、この国はそう簡単には1つには纏まりません。3.11レベルの災害が起こった場合には団結力が働きますが、意外と分散的な社会なのです。だからこそ、何が言いたいのかというと「マスメディアは偏狭的・断片的情報だけを数字至上主義に則って報道するのではなく、日本の現状をより客観的に把握できる様な情報リソースを提供するべきである」という事です。国民全体で危機意識を共有すべきなのです。なぜなら、相手は、10億以上の国民を率いた大国家なのですから。

 そしてその上で、マスメディアは、目を見張る様な痛々しい日本の現状、あるいは日本の伝統芸能が放つ世界的プレゼンスなど、メリットとデメリットを調和して、折衷的に報道するべきだと言えます。先程上述した様に、日本人は国家的有事に陥った時は皆で協力する力を持っています。よって、計算機科学という今の世界を牽引する学問分野におけるプレゼンスに乏しい日本の現状がどれだけ危険であるかを、大衆メディアを介して国全体で共有すれば、国民意識としての危機感が醸成されるのではないでしょうか。

 本書『シン・ニホン』では、日本の大学のプレゼンスから伺える、現代日本の凋落と改善点が図表を用いて具体的に解説されています。この書評では掴みきれない要素があるのでぜひ手に取ってご覧ください。

②普通ではない人の時代

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〜 妄想力 〜

 嘗てのTOYOTAやGM、GEなどを主軸とした産業における価値創出は「N倍化」が行われていました。製品を大量生産してボリュームを産出する形態です。そしてその後は「刷新」が生まれ、大塚製薬の医薬用輸液によるポカリ生成やFedExによる物流革命が到来しました。そして今の本流は「創造」だと本書は的確に指摘します。いわば「0 to 1(ゼロ トゥ ワン)」です。

 嘗て攻勢を極めた「N倍化」は今や、人口の爆発的増加が当面見込めず、その将来性は目減りしています。一方で「刷新」は、新設主要都市シンガポール、深圳などに代表される先端地域などで、より一層加速しています。Huaweiの5G革命も同様に。そして今の時代で最も強力なのは「創造」。何かを生み出す力。本書ではそれを「妄想を形にする力」と言われています。

 Teslaの開発したソフトウェア主体の自動運転搭載車、持ち運べるコンピューターを開発したApple。既存の製品を大量生産し、市場シェアをスケールさせる事で企業存在を拡大出来ていた時代は終焉を迎え、0から新しい物事を生み出す企業・人材が重要視される時代に突入しているのだと本書は訴えかけます。

〜 異人 〜

 そんな中、嘗て重宝されてきた「ジェネラリスト」は消失し、「異人」の時代が訪れています。誰かの引いた線路を走る人間ではなく、線路自体を創造する人間になる必要があるのです。何でも出来るスーパーマンを追い求め、明治維新由来の学校教育における画一的枠組みに内包されている様では、今後の社会を築く人材にはなれないと本書では語られています。

 その為には、その様な偉人に対する社会的寛容性が必要で、学校教育において伝承される「起立、令!」をやめない限り、同質性の高い集団が維持され続けてしまいます。本書で安宅先生は「『気をつけ』『前ならえ』の廃止からシン・ニホンは始まる」と声高に宣言されています。世の中には、変革を生み出す起爆人種、それに賛同する参画人種、それらに共鳴して見物する応援人種、そもそも革新に興味がない無関心人種、確信を否定する批判人種の5種類が存在しており、「汝を愛せよ」の言葉通り、全ての関係性が大切ではあるが、皆さんにはぜひ「起爆人種」or「参画人種」を目指してほしいと安宅先生は云います。

〜 狭き門 〜

 同列競争の中で優位性を獲得する為に猪突猛進で努力を繰り返すのではなく、質的差異によって生じる優位性を大切にすべきで、人と同じ事をするのをやめ、自分にしか出来ない事を極めましょう。1つの分野で特筆的存在になる必要はなく、異なる分野でプレゼンスを発揮すれば、その掛け算によって恩恵がもたらされるのです。その際の注意点としては「好きな事をやるより、人と違うことをやるというのを意識しよう」という事だと安宅先生は云います。ゲームが好きだからと言ってゲームを無闇矢鱈にやり込むのは、ゲーム会社に掌の上で転がされているだけであると。加えて、今回紙幅の問題上省きますが、本書は「チャーミングな人間になれ」とも言っています。

〜 若さ 〜

 1918年に誕生した松下電器(のちのPanasonic)は当時23歳だった松下幸之助さんの手によって創られ、1905年に発表された「相対性理論」の生みの親アルバート・アインシュタインは当時26歳、ラリー・ペイジ(25歳)、セル・ゲイブリン(25歳)で創業したGoogleなど、今に至る世界的大企業は「若さ」によって生まれています。Appleもジョブズ21歳、ウォズニアック25歳の時の創業です。俯瞰して世界を見渡すと、驚くほどの成長を遂げて世界を一新した企業は、基本的に30代前半の人間によって創業されているのです。若さは1日1日目減りしていく財産であり、それを貴重に使って世界を変えようと本書は語りかけています。

〜miyabiの意見〜

 前回の【上】で1/3の世帯が貯蓄ゼロであるという事実を取り上げましたが、それに関連して、「若い」という輝きが貧困や不遇の出来事によって潰されてしまう事はあってはならないし、安宅先生の言う通りだと考えます。しかしながら、若さが全てではなく、年を重ねる事によってしか理解し難い事柄もあると思いますし、それを半学半教的な考え方のもとに、勢いのある若手と共有し合うことが大切だと思いました。

 そして「異人」というキーワード。実は私が本書を読んで一番感動したのがこの「異人」に関する章でした。もどかしさを抱えつつも、人と違うことをせねばならんと考え、日々何とかやり過ごしている私ですが、その不安や雑念が全て消えたのです。そうなんだ、違う事を全力でやってもいいんだ!いや、違う事こそすべきなんだ!いやいや、違うことしかしてはいけないんだ!くらいに考えられる様になりました。その心意気を創発出来たのは、安宅先生の発言であったという事もさる事ながら、『シン・ニホン』という日本の現状と今後を深く分析する書籍を拝読したからこそだと感じています。

 私も現在大学1回生であり、必ず未来を創る人材になれると確信しています。自分で言うのかいと思われるでしょうが、正直その程度まで自分を信じれる人にしか世界を変えられないと思っています。その勇気と成果を、今後も皆様と共有できれば幸いです。


 本記事はここまでです。

参考文献:Wikipedia、『中国製造2025とは 重点10分野と23品目に力/日本経済新聞』、『シンガポールのIT政策(<特集>シンガポールのいま)Jstage』

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。