【経験の無価値化 and 100万人に1人の人材】 〜君たちはどう考える?〜

 今回は「経験の無価値化」と「100万人に1人の人材」という2種類の提言、考え方を分析し、私たちはどちらを吸収して行動すべきなのか、或いはどちらも正しいのか? 色々と検証し、本質的な問いを紐解いていきたいと思います。

経験の無価値化とは

 「経験の無価値化」は、独立研究家でパブリックスピーカーの山口周さんが主唱する、現代のVUCA社会*¹においては、旧来型で古くから伝承される考え方は通用せず、予測不可能な時代は、その時々の考え方をアフタフォローや同時に順応する形で吸収していくことが大切だと述べられています。

 例えば、分かりやすい具体例で言うと、日本的経営(終身雇用制・年功緒列型賃金制・労使協調主義)という考え方があります。ですが、この用語は既に死語になりつつあるのです。なぜなら、日本の社会が成熟し、かつての「作れば売れる」時代(皆が三種の神器や3C等の、生活必需品など、同様の財・サービスを求めていた時代)が終焉したことで、人々の求めるニーズが多様化し、一つの手法を何代にもわたって継承していくことが困難になっているからです。

 さらには、日本一の自動車生産会社 TOYOTA自動車の豊田章男社長が記者会見で「終身雇用を維持することが難しくなる」と発言されたり、経団連の中西宏明会長が「今のような事業の栄枯盛衰(浮き沈み)が激しい時代には、特定の雇用を守ることが難しい」という趣旨の声明を出されていたりします。要は、今まで常識だと考えられていたことが時々刻々(じじこっこく)と急激に変化する時代においては、既存の財やサービスを持続的に維持することが難しくなってきているのです。

 そのような面も含めて、一つの事業で学んだり身に付けたスキルが、必ずしも数年先の未来で役立つとは言い難い社会になってきています。プログラマーやエンジニアの職業は顕著で、近年No Code(WixやWordpress等の、一からHP、アプリケーションの全工程をプログラムを書いて動かす必要がないシステム)が話題になったり、そもそもプログラミング言語の更新頻度や文法変化は他業界と比較しても非常に迅速なので、常に学び続けないと、まさに「経験の無価値化」が発生してしまうのです。

100万人に1人の人材とは

 上述した経験の無価値化と、ある意味で対をなす考え方が「100万人に一人の人材」という言葉です。

 この用語は、リクルート社に20年以上勤務し、教育改革実践家としてかつては東京都杉並区杉並中学校の校長、奈良県の一条高校の校長も歴任された藤原和博さんが高唱している考え方を象徴した言葉です。

 先ずは1つの分野で「100人に1人の人材」になり、その後は2つ目の分野で再度「100人に1人の人材」になり、3人目も同様に「100人の1人の人材」になることで、100 × 100 × 100で「100万人に1人の人材」になろう!という考え方です。100万人に1人とは、藤原先生によるとオリンピアン級(オリンピックのメダリスト級)で、そうすれば、この分野と言えば〜さんだよね!と言われる人材になれるのではないかという仮説思考です。

 さて、皆さんは上記の「経験の無価値化(山口さん)」と「100万人に1人(藤原先生)」の考え方の間に何かモヤッとする部分を感じないでしょうか。

 では、核心に迫りたいと思います。

1つの分野で成功しても、その分野が無価値化する可能性がある

 そうなんです。山口さんの前提を踏まえると、VUCA化時代においては、ある時代に有用(役立つの)だとされていた経験やスキルが一気に無価値化する蓋然性*²が高まり、自信を持って学んで会得したことが役立たなくなる公算が大きいのです。

 その場合、後者の100万人に1人の人材になろう!とだけ盲信的に信じていると、後々「あれ?私はこんなに必死に勉強したのに!」と後悔するパターンすら予測出来ます。

 固定化したA・B・Cの能力を掛わせるという発想は極めて大事だと思いますが、必ずしもそれだけでは食べていけない時代に突入しているのだと思います。

 今回の主題を極端に言えば、経験や職能がいつかは経年変化で価値を失うか可能性が高いことを知らないと、①コールセンターのバイトスキル(既にAIにより代替)と②エレベーターガールのスキル(殆ど現代社会には存在しない)と③レジ打ちバイト(GU社やマクドナルド等は既にレジ打ちの仕事が廃止に向かっている)の3つの領域でトップを極めてしまい、最後には、それって現代の社会でどう市場価値を生み出せるのか?という風に井戸の中に陥ってしまうのです。この説明で、結構腹落ちした人は多いのではないでしょうか。

学びの本質をいかに知るか

 この話は「学ぶことの意義」に直結すると思います。

 仮に後者の「100万人に1人の人材になろう!」だけを知った状態で仕事や生活を進めていくと、ふと気づいた時に「通用しないモノをいつまでも保有していること」を実感し、嘆(なげ)かわしい気持ちに陥るかも知れません。

 ですが、学び続けることで「情報の最先端」を知り、今の時代の変化を読み取り続けていれば、常に「社会と自分」を照合(照らし合わせながら)しながら自分をメタ認知(客観的に見ること)が出来るので、自分はどのスキルを磨くべきかについて、軌道修正・方向転換がしやすくなる訳です。

 僕は「学ん」で、この2つの思考を知りました。解剖学社で有名な養老孟司さんの言葉に「知ることは生まれ変わることだ」(『バカの壁 / 養老孟司著』)という言葉があります。知ることで見える景色が変わります。

 リンゴ1つをとっても、今までは「赤い」や「丸い」という視点でしか認識出来なかった場合でも、生物学や植物学を学ぶことで「重量的に〜かも」や「酸っぱさや甘みは何に由来するのだろう」と新たな問いを発見することが出来るのです。

 先日、とあるファミリーレストランの向かいの席で「俺は一生この会社で安泰かもな!グハハハ!」と強調して部下に語りかけている先輩上司の方を見かけましたが、その方がこの記事を見て、一度自分の「学び」を再考する機会になれれば幸甚の喜び*³です。

 そして、今回の記事を見て下さった方々に少しでも「学びの機会」になれれば幸いです。僕のアウトプットとしても。

オススメ書籍

 双書とも極めて有益な書籍で、本記事の内容をもっと具体的に細かく知りたいという方、時代の最先端を知りたい方はぜひ!

【注釈(annotation)】
*¹ VUCA社会 ··· VUCAは、Volatility(揮発性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の総称で、VUCAが諸所、全般的に行き渡った社会。『ニュータイプの時代/山口周著』(ダイアモンド社/2020.07.14)に詳しい。
*² 蓋然性(がいぜんせい) ··· 可能性、公算、確立、確度と同義と捉えていい。
*³ 幸甚の喜び ··· この上ない喜び。

(執筆:みやび Masaharu Sumida)

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。