ナッジによって、システムを変え、人を変える

世間の人々は、そう簡単に「今まで自分が行っていた常習的行動」を変えません。常習的行動とはつまり、習慣、ルーティーン、クセと言い換えることができるでしょう。例えば、靴を履く順番、ご飯を食べる順番、ランニングをするコース、車で目的地に行く時の「いつものルート」などなどです。

私で言うと、人と話している時に、瞬きの回数が多くなる場面があったりします。自分では気にしていないことでも、人から見ると「君、こういうクセあるよねぇ」と言われることがしばしばあります。

時に、私たちには「集団としてのクセ」や「人間ならではのクセ」も存在します。
「人間は怠けたがる生き物である」とか「この集団は、こういう風習があるよね」とかです。集団も、結局は人間一人一人から構成されているので、集団のクセは人間のクセに他なりません。

そのクセや人々の行動習慣に関する、行動経済学の面白い実験研究があり、今日はその中から2つを紹介したいと思います。今回のような、人の行動が変わった実際の事例を学べば、経営者や教育関係者の方々に、後輩や部下を指導する方法としての手段が1つ増えると思います。

これからお話しする事例を通して私が伝えたいのは、人に外野から「お前はいつも〜なんだから、今回からは〜しろ!」と強圧的に脅かす手法ではなくて、緩やかに人の行動を変えようということです👍

地下鉄の階段がピアノに

1つ目は、スウェーデンのストックホルムにおいて実施された「地下鉄駅の階段をピアノにする実験」です。フォルクスワーゲンという有名な自動車会社が促進したプロジェクトで、公共サービスプロジェクトの一環として行われたものです。人々に体を動かしてもらうため、エスカレーターではなく階段を使ってもらいたかったのです。その様子がこちら。

ストックホルムのピアノ地下階段

市内の「オーデンプラン駅」から地上へと導かれる階段を、ピアノの鍵盤風にアレンジしたのです。上下に階段を踏むたびに、設備された音響システム(スピーカー)から、そのステップと鍵盤の音階に合致したピアノの音が鳴るシステムが構築されました。結果、この設計手法によって、階段を利用する人が60%も増加したというのです。

人間は普段、面倒なので、ついついエスカレーターを使ってしまう生き物ですが、そのエスカレーターの上り下りが「楽しく」なれば、そっちを使いたがるものです。また、当初は「そのストックホルムの地下鉄道でしか体験できないピアノ式階段」でしたので、希少性という面でも、この階段を登って地上に行きたい!と思った人が増えたのでしょう。

人間は元来、楽しいことをしたい!という欲望が装備されていますから、その欲望をうまく使って、人々の行動習慣を変容させた良い例だと言えます。そして、この活動がソーシャルネットワーキングサービスを経由して全世界中に拡散されたことで、今では、フランスのパリやレンヌ、中国南京等の地下鉄でも利活用されています。

皆さんも経験があると思います。何度も同じことで失敗する人が近くにいた場合、その人間の行動を変えようと思っても、なかなか変わらないことが。そんな時は、この例で言うなれば、失敗しないことの方が楽しい!と思わせる体験をさせてあげれば良いのです。いつもは、「ミスしないこと=頑張らないといけないこと」でしたが「ミスしない=自分が楽しくてトクをする」というナッジシステムを設計してあげましょう。

ナッジとは、強制的な行いをせずとも、暗に、良い行動を促すことです。

例えば、私の場合でいうと、大学受験で勉強漬けの日々だったので、受験後に体重が10kgも増えてしまいました。なのでその後、思い立って、毎日1時間のランニングで痩せよう!と決心していたのですが、なかなか続きませんでした。なぜなら、理由はシンプルで、毎日1時間もランニングするのが面倒だからです。

しかし、私はもともとナッジ的な手法を知っていたので、ある方法を思いつきました。それは単純に、毎日の走る時間を減らし、25分にすることです。

なぜそのように設定したかというと、結局、毎日のように「1時間のランニングがある〜(泣)」とストレスホルモンを増加させてしまうことで継続が困難になり、走る総量が減るくらいなら、1回あたりの走る量は少なくとも、毎日続けた方が総合的・長期的に考えて痩せるだろうと思ったからです。

そしてその際に気をつけた、もう1つ大事なのは、成功体験を組み込むことです。
人間は、自信があれば何でもチャレンジしますが、自信がなくなればすぐにチャレンジをやめてしまうものです。なので、誰にとっても、どうにか自分に自信をつけることが肝要なのです。私の実体験を踏まえ、皆さんもそうだと仮定するのですが、1時間ランニングすれば、その結果は「今日はランニングしたー!」ですが、25分ランニングしても、結局は同じで、「今日はランニングしたー!」と言う気分になれると思うのです。

要は、「ランニングをしないこと」が最も悪なわけで、その「やらなかった」という、クソでアホで最低な辛さを知っているからこそ、25分でも1時間でも、その最低限のノルマをクリアできているので、安心できる訳です。しかも、1回25分なので、精神的にも「25分くらいなら全然いける!」と感じ、導入が容易だと思います。

ダイエットも何もかも、継続することが大切なんです。1日に大量の負荷をかけて「よっしゃー!今日はやり切ったー!」と思っても、次の日には「また今日もあのしんどいトレーニングが待っているのか…」と病むだけです。そしてついにはダイエット自体をやめてしまう。

そうではなくて、そうになるくらいなら、そもそも一回の負荷を下げて、継続することがラク、そして、継続している!私毎日走れてる!という感覚を獲得できれば良いのです。

このように、強制性のない状況を作り出すことで、人を変えることもできれば、自分の日々の習慣も変えることができるのです。ランニング継続の秘訣に関しては、本当にオススメなので、ぜひ、1日の負荷を圧倒的に減らした上で、継続にチャレンジしてみてください。
※個体差によって、キツイ!と感じる負荷は異なりますので、ぜひご自身のオリジナル負荷調整を設計してみてください。

腕立て伏せをやりたいなら、1日10回でいいです。継続することが大切です。1日10回なんて余裕だと思うかもしれませんが、最初から気合を入れて回数を増やさないでください。次の日になって「いやキツすぎる、できない」と思い、さらには「私はこんなこともできないのか」と病むだけです。「継続する」>「回数の減少」なので、数が減るより、継続できている方が人間は安心感と射幸感が持てるのです。これが、総合的・長期的にみて、暗に良い行動を促せるナッジ的手法なのです。

ハエがトイレのキレイにする?

では、もう1つの例を紹介しましょう。

オランダの首都アムステルダムにある、スキポール空港のトイレで実施された実験です。

スキポール空港 トイレ

出典:urinal.net

この空港の男性用小便器には、微小な黒いハエのマークが描かれています。真ん中ではなく、少し左下に描かれています。そして、この空港では、利用者は無意識のうちにそのハエにめがけて用を足しました(男性諸君はこのような、的を射る的な経験があると思います)。

単発的で簡単な仕組みに見えますが、これにより、飛沫による汚染率が80%も減少したというのです。加えて、空港トイレの清掃にかかる費用が8%も減少した試算されています。

これによって利益を享受したのは、空港の管理会社、トイレ清掃スタッフ、利用者など多岐に渡ります。このような容易に見える事例でも、多くの人の行動や利害を変えることが可能なのです😏

自由意志より、無意識に促そう

キーポイントは「頑張らない」こと。

人は、意思決定や自主的行動に多大なるエネルギーを使用します。よって、1日の中で朝が一番元気が良くても、意思決定や自主的行動をし続け、夜になると、精神的にも肉体的にも疲労を被ったりします。そして人間は基本的に「ラクをしたい生き物」ですから、考えなくても「楽しめる・ラクができる」構造的アプローチを試みていくと、自分の変えたい人を帰れるかもしれません。

今回紹介したような、自由意志にかかわらず、無意識のうちにやってしまう(やってしまいそうな)ことを増やせば、人を変えることは容易です。

最後にもう1つ、簡単に私の例を挙げておきます。
私はそもそもテレビを見ません。しかしながら、テレビでニュースがあると、つい見てしまう時があります。なのでもう2年以上経ちますが、テレビを売りました。それは今まで述べた通りの構造的なナッジのアプローチと同様に、前提として「わざわざ自由意志(労力)を使って、見ようかな、見ない方が良いかも」と判断させる時間を削減したのです。

まぁ実際、テレビで報道されている内容は、『FACTFULLNESS』という有名な書籍にも書かれていますが、結構偏狭的で局所的な情報だったりします。あえて悲しいニュースや不安を煽るニュースを取り上げて視聴率を稼いだりと。

このような無意識でできる構造的アプローチによって人を変えていくことは可能です。ぜひ、自分を変えたい!変えたい人がいる!と感じている方は参考にしてみてください👌

ナッジを忘れずに!

では今日はこの辺で👋

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。