『知的生産術』出口治明著 〜書評〜

 本日は先日読了した『知的生産術』の書評を記す。

 この著作は、立命館環太平洋アジア大学 出口治明学長が上梓されたもので、どうすれば「知的生産性」を向上させる事が可能になるのか、自分の頭で考えられるようになるのかが明記されている。

 私が何故この書籍を手に取ったのかと言えば、最近拝読した『アウトプット大全』で人間が学習出力をする事の重要性を学んだ後、より一層具体的な「知的生産方法」を習得したかったからである。

 本書では、出口学長が主唱する「タテ(歴史)・ヨコ(世界)・算数(数字・ファクト・ロジック)」の考え方が駆使されており、日本で話題奮闘中である各々の出来事に明確で理解し易い説明が加えられている。頭を良くする方法、日本の労働市場の現状、仕事術、経営手法、イノベーションについてなど様々なトピックスが取り上げられ、そこに著者の深い見識が反映されているので、組織を運営するオーガナイザー系の職者は必読と言って良い。加えて、学ぶ事の本源的意義を知りたい人や、少しでも学習効果を上昇させたい方にもお勧めである。

 この書評記事では、本書で気になった論点を要約して伝えると共に、それについての私の批評を簡易的に添えたいと思う。

 

「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」へ

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 「メシ・風呂・寝る」は工場労働型の長時間労働モデルを継続した時に起こる会社員の行動パターン。反対に「人・本・旅」はサービス産業中心の社会に生きる私達が行うべき事。日本は未だ従来の「製造業モデル」からの完全脱却が図れていない。長時間労働は元来、工場レーンで上層部の指示に従順に従い、言われた事だけをこなす仕事には有用であったが、現代の成熟社会では「多様な商品・価値観」が顧客需要の大半を占める。つまり、従来の、毎日朝から晩まで詰め込みで働いて大量生産をすれば経済が回る時代ではなくなった。欧米では、長時間労働をしている人に対して「コイツは仕事が出来ないヤツだ」とも評価される時代である。

 長時間労働が労働生産性を向上させるというデータは存在しない。翻って、長時間労働が労働生産性を低下させると示唆する研究・論文は多々発表されている。顧客のニーズは既に変化しているのだ。そしてそのニーズに対応する為には「クリエイティブな脳」が必須になる。脳をフル稼働させる労働は、人類の脳内メカニズム上「1回2時間」程度しか継続できない。つまり、休みなく奉献する長時間労働を強いても、社員の生産性は上がらないのである。何故なら、生産性を図る指標が「量」→「質」へと変容しているのだから。そしてその為に「人・本・旅」で色々な経験をし、自身が生み出すアウトプットの土台作りを進めよう。

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 私は本や旅が大好きで、人とも積極的に会うので、この言葉は身をもって体感した事である。従来型の形式的労働生産が通用しない時代だからこそ、この「人・本・旅」は極めて重要な用語になるであろう。出口先生の深淵な見知の土台が大別してこの三種類から得られている事を垣間見れば、その手段を施さない手はない。加えて、出口学長の言葉を借りると、同じ人には会わず、分野横断的な書籍を手に取り、似通った空間に依拠しない事もクリエイティビティを向上させる上で極めて重要だ。イノベーションは「サボりたい」という欲求から生まれるのである。

 

「女性」が活躍しなければ労働生産性は上がらない

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 サービス産業が基盤となる社会では、どの様な統計分析を基にしても、需要の6~7割は女性が占めている。にも関わらず、男性優先主義的な暗黙の了解が存在する日本社会では、未だ男性が占める社員数の割合の方が多い。しかし、30代や40代の女性が何を感じているのかを50代60代の男性が察知する事は極めて難しい。その為、欧米的なクオーター制(事前に女性採用数を一定割合確保する制度)の導入が必要になるだろう。市場のミスマッチを解消する為にだ。

 更に、女性活躍が推進されない事実は長時間労働にも起因し、今でも多数の女性が一度出産・育児期間に入れば職を辞している。長時間労働をせざるを得ず、夫も家事を協働してくれない環境の中、どうやって子供を育てられるのか。残業上限規則やインターバル制度(休憩を挟みながら労働する制度)の導入が必要になるだろう。

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 この指摘は至極真っ当で、多様性とはそもそも「雑多な人種が混在し合う事」によって生まれるので、その為の基礎因子を日本は削ぎ続けている訳だ。そんな社会からユニコーン・GAFA・BATH的な世界的大企業が生まれるとは到底思えないのが正直な所である。だがしかし、一度解放すれば眠っている女性の才能が爆発し、彩ある日本社会を形成してくれる事は自明であり、既に行っている企業含め、民間企業から積極的に推進していくべきだろう。

 

「数字・ファクト・ロジック」で考える

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 人間は自分の見たいものだけを見る生き物である。しかし、知的生産性を高める為の要諦は「数字・ファクト・ロジック」を駆使して多彩な思考を繰り返す事である。過去の成功体験に囚われず、物事を自己優先で曲解する事なく、ありのままでゼロベースで理解する必要がある。

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 大学の授業で「タイタニック現実主義」という事例を知った。あるいはポジティブ志向の弊害を痛感した。人は経験・過去を塗り替え、利己的な背景に落とし込む難癖がある。そのせいで現実を直視できない人が量産され、特に昨今のフェイクニュースが飛び交う社会では顕著に現れる。つまり、著者が述べる様に、具体的・詳細的な数値、記録ベースで現実を理解すべきなのである。そうでないと常に過去を見たい様に編集してしまい、後々痛い目に遭う蓋然性が高くなるのだから。意外と情報洪水の中では意識出来ない部分なので、ぜひ意識していきたい。

 

考える力が育つ「情報収集」の技術

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 新聞を複数紙購読する事で、思考のヒントが生まれる。新聞とは、先日起きた情報の価値を序列化し、並び替え、一覧表示するものである。その様に会社ごとに区分された情報を満遍なく平行して拝読する事で、各氏の主張の違いが考えるヒントになり得るのである。それでも理解できない事柄があれば、ネットで調べる必要がある。今のWikipediaは一昔前の百科事典と遜色ない程度で作成されているので、信頼度がおける。それでも理解が足りない時は、体系化された本を手に取り、整合的な内容が含有された情報を得る。読むメディアを特性毎に区別して使い分けよう。

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 私は基本的にネットニュースで情報を得ているが、やはり今月からまずは一社、新聞社を購読してみようと思う。この書籍には、非常に具体的な学習方法・情報収集方法が記載されており、ピックアップし切れない暗い豊富なメソッドが詰まっている。もっと色々な方法があるが、ここでは紹介(要約)し切れないので、「ネットで情報を取りに行け」と言われて当惑している方はぜひ本著を手に取ろう。

 

大学は10年後の日本社会を映す先行指標

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 APU(立命館太平洋アジア大学)はダイバーシティ(多様性)に富んでいる。在籍する約6000人の学生の内、半分は外国人学生である。いわば小さな地球、小さな国連である。人口一人当たりの留学生数は京都に次ぐ2位。海外から多数の留学生が来るので年間の経済効果が極めて高い。地域にも貢献し、世界とも繋がる、言わば「グローカル/Glocal(Global + local)」な大学である。入学随時・受講随時・卒業随時の形態も取っていて、学びたい学生を全力で支援する。教員も多様性に溢れており、専任教員の約半数は外国籍、出身国は22か国・地域に渡る。今後は性別、年齢、国籍等を全てブラインド化して、自由に学生がやりたい事を実現できる大学にする。そして、そこで多角的な発想を学んだ人達が、大学卒業後に日本社会を形成するからこそ、将来が豊かになるのである。大学は10年後の日本社会を映す先行指標なのだ。

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 その通りである。現代の「大学就職予備校化時代」において、普通に生活していれば体験し得ない多様なバックグラウンドを持った人々との交流機会は非常に大切で、それを在学生の約半数が外国生という状況で体現されている。日本人教員だけでは想像もしなかった大学運営におけるIdeaをもしかすれば、その外国籍留学生が提供してくれる可能性だってある。それは正に混沌とした多様性の中からしか生まれない発想だ。製造業中心社会からサービス産業中心社会へ移行する中、未来を創造する人材は「大学からこそ」生まれる。


 本書の素晴らしさは「数値化」にある。全ての論点に対する主張の裏には常に「指標・インデックス・統計分析」が内含されている。だからこそ皮相的・表層的な文章ではなく、社会問題の本質を突いている。多様な背景を持つ人々の議論を擦り合わせる為には「数字」が共通項になる。その事実を本著者は熟知している。そして、日本的な社会問題の本源的要因やその具体的解決策を模索している方には心からこの一冊を激奨する。取り敢えずこの書評記事を読んだあなたは今すぐ速攻でスマホを手に取り、Amazonでポチるべきだ。以上。

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。