『教えるということ』出口治明著 〜書評〜

 この度『教えるということ/出口治明著』を拝読したので、その書評を執筆したいと思います。最近、読んだ本を書評してアウトプットする機会が減少しているので、積読ではなく「読置(よみおき)···読んでおいておくこと(造語)」が重なっています。今回の立命館アジア太平洋大学(以下APU) 出口学長の書籍も、実際は1ヶ月以上前に読了したものですので、遅い書評ではありますが、読了した後に感じた事は多分にあり、殆どが脳内に記憶されていますので、是非ご紹介したいと思います。

 

『教えるということ/出口治明著』

 本書は、なんと冒頭で「現代の本を読んで理解できないのは、著者がアホやから」という主張が一刀両断でズバッと言い切られており、還暦から10年間もライフネット生命創業者として部下を支え、古希を迎えたタイミングからAPU学長という立場に就いていた出口学長が考える「誰もが腹落ちする『教えること』の本質」が簡明に記されています。

 中盤辺りから、出口先生と立命館慶祥中学校・高等学校の校長先生、生物心理学者の岡ノ谷一夫先生との対談が記載されていたり、外的な意見も取り入れながら、「教える」という用語に基づいた多才な議論が展開されています。

 では、私流のスタイル「気になった部分の要約→批評」という流れで書評記事を進めていきます。今回は長文の概略的要約が多いので、触れるトピックは3つまでにしておきます。

①自分の頭で考え、社会を生き抜く術を身に付ける

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〜 resume 〜

 APU学長に就任した当時から、自国における教育の根底を成す教育基本法や学校教育法、学校教育法施行令などを渉猟し、日本の教育システムの歴史的系譜とその目的について考えてきた。そんな中、私は教育の目的として、教育基本法第1条で語られている2つの事をこの様に解釈する。

 日本の教育目的は、子どもたちに、①自分の頭で考える力を養うこと②社会の中で生きていく為の最低限の知識を伝授すること、であると。

 まず第一に、自分の頭で考える力を要請する必要がある。17世紀を生きた哲学者パスカルが自著の中で語る様に、人間は他の動物と比較した時、「考える」からこそ偉大なのであり、「考える」ことが人間の尊厳を確立しているのである。変化の激しい現代には、探究力や問いを立てる能力、常識を鵜呑みにせず自分で考える力が必要になってくる。加えて、人間の脳は約1万年間は殆ど変化していないので、考える力を習得する為には先人に学ぶ事が肝要であり、アリストテレスやデカルトなどの古典的名著を拝読する事が大切である。更には、タテ(歴史)・ヨコ(世界)・算数(数字、ファクト、ロジック)で考え、将来像は完全に予測不可能であれども、過去や歴史から学んでいく事も大切になるだろう。

 二つ目に、社会を生き抜く為に最低限必要な知識を伝授する事である。具体的には「国家・政治・選挙・税金・社会保障・お金・情報の真偽」の7項目について教え、育むべきである。民主主義は、投票者ないしは被選挙者が有する成熟的で理性的な考察・判断を前提に設計されており、その前提的基盤を崩壊すれば、民主主義はすぐさま衆愚政治(愚かな政治)に陥ってしまう。例えば、国民国家(Nation State)の成り立ちや社会保障制度における「負担」と「給付」の関係性、現日本国が抱える低投票率問題、政治参加意識や欧米との対外的政治比較など、一国の投票を担う人が必ずや身に付けるべき事柄を教え、学んでいくべきなのである。

〜 comment 〜

 上述したのは、本書の最初部分第1章で語られている事を限界まで濃縮した要約文なのですが、出口学長は普段から主唱されている「数字・ファクト・ロジック」で考える天才だという事を改めて痛感しました。この著作を読む前は正直、長年の経験を自伝的に語りながら「私の経験上、人を教導するとはこういう事です」と謳う書籍だろうという程度に考えていたのですが、真逆の解が返って来ました。例えば、日本国における選挙率の低下に関して国際NGO「民主主義・選挙支援国際研究所」の公表データ(数字)が活用されていたり、スウェーデンなど北欧における選挙や政治に関する教育政策が具体例(ファクト)として取り上げられていたり、終始前述の3つの柱が貫通されていました。

 同時に、昨今のウェブ検索機能は優秀で、「〜 データ」と検索すると、優先的にある程度社会的信頼度の高い国家や国立研究所のデータが表示されるアルゴリズムが構築されているとも仰っており、日常生活におけるシンプルなプロフィッタブル情報を得る事が出来ました。まだ拝読していない人は1章だけでも読んで欲しいです。ここでは紹介し切れませんが、「ドルコスト平均法」や「年金がもらえなくなるというのは誤解的通説に過ぎない」という旨の面白い議論が詳細的に展開されているので、1章を読むだけでも相当な学びになるでしょう。

 

②オンライン教育のデメリット

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〜 resume 〜

 東京大学などは往年、7〜8年前に注目を浴びた「Moocs(Massive Open Online Courses)」と呼称されるオンライン教育に着眼点を当てていた。そして、7〜8年前に開催された数多くの講演会では「10年以内に大学教員の職が殆ど駆逐されてしまい、講義の優秀な教員と研究の優秀な教員だけが残存するのではないか」と危惧されていた。しかしながら、現在その様な変質は起きていない。その主要因として、オンライン教育(授業)は課程修了率が極めて低率である事が挙げられる。オンライン授業は(生物心理学者 岡ノ谷一夫先生の)実感として、子どもたちが挫折しやすい設計になっており、モチベーションの扇情に至らないのである。

 実際、学生達が学びを深める要因として「この先生から学びたい!」と言う強い意志なども関連してくる。TOEIC満点を誇る教職員と一般的な教職員では、受講者の学習成績の伸長率に差が生じたという研究もあり、プラシーボ効果の効力は計り知れないのである。加えて、オンライン授業では「ピア・ラーニング(仲間との学び)」が促進されないので、オフラインの特徴である「コイツには負けたくない!」という反骨精神や励まし合う文化が醸成され難い。この様な欠点を踏まえ、オンライン教育にはデメリットが多々あると言える。その為、完全オンライン型で世間を一新するミネルバ大学が成していく今後の動向に注目である。
※岡ノ谷一夫先生との対談内容を要約。

〜 comment 〜

 この部分も非常に共鳴します。というか共鳴するからこそ取り挙げているのですが、この「プラシーボ効果」と「ピア・ラーニング」のツーワードは、Covid-19の感染拡大でオンライン教育の整備が加速する中、極めて重要な文言になります。子どもたちが実際的に学校で感じていた「学ぶことによる喜び」とは何だったのか、あるいは、その喜びを感じていない子どもたちはなぜ感じていなかったのか、大々的な組織が思い切って全国的な調査をすべきだと感じています。並びに、先ほどの一章の紹介と重複して申し訳ないのですが、この「生物心理学者 岡ノ谷一夫先生と出口学長の対談」も本当に必見の内容となっております(次の章も同様の事を言いそうな予感)。生物学的視点で人間の学習・成長が考察されており、生物学上は同類と良い得る猿やチンパンジーと人間を比較したうえでの意見が散見されたり、既知感が全くない章なので、最後まで連続して楽しみながら読めると思います。

 

③日本の学校教育には厳然たる「格差」が存在する

〜 resume 〜

  現代社会において、子供の生涯所得は、その子供が享受した教育レベルに大半が比例すると言われている。アメリカの様な超階層社会ではなくとも、日本もOECD(経済開発協力機構)加盟国中では貧困率が最悪レベルの水準に位置しているである。スバリ「7人に1人」が貧困状態にあると言われている。「日本は生まれ育った家庭と地域によって、何者にでもなれる可能性が制限されている緩やかな身分社会」なのである。幼児期の家庭環境によって子供の学力や学習における慣行が規定される部分も大きいので、教師が一元的に「なぜ君は出来ないのか」と指摘をするのは専ら的外れなのである。

 従って、教師はまず、いきなり一方通行的な授業を展開するのではなく、子供の社会経済的背景を理解しようする事に務め、子どもたちの自己肯定感の醸成に寄与しなければならないのである。『フリーダムライダーズ』という実話ベースの米国映画があるが、その中で、ある地域校の赴任教師が、社会経済的に恵まれない子どもたちの集合クラスを請負っていく中で、各々の人生背景について知ろうと「君たちの過去・現在・未来について書いて欲しい」と言う場面がある。このフッテージを視聴する事で、貧困発生によってそもそも学校教育時代が成立しない事や教師が子どもたちの内面に寄り添う事の重要性が理解できる。
※早稲田大学 松岡亮二准教授と出口学長の対談を要約。

〜 comment 〜

 まず、教育に関心のある人全員に実行して欲しい事が、松岡先生の『教育格差』を完読する事です。各国のデータを反映し、日本の対外的教育進歩度を測りつつ、内在的な教育格差の問題が洗い出されています。私は同書を読了し、今年読んだ名著リストがまた1冊増えました。この対談の要約に関しては、もう少し「先生から子どもたちへの寄り添い方」が具現化、詳細化されていれば面白いかなと思いました。実際、いきなりやってきた人に「あなたの過去・現在・未来についてなんでも良いから書いてください」と言われても、特に日本人なんかは民族的特性上、難しい部分があるでしょう。スマートフォンでやり取り行う事や、一対一で長期的にバックアップするなどの施策が紹介されていたらもっと面白いと感じました。


『教えるということ/出口治明著』

 今回は『教えるということ/出口治明著』の書評記事を執筆致しました。特に教育関係者の方々へのご参考になれば幸いです。

(執筆:京坂 雅)

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。