【MI理論と国語教育】 with 本間正人 〜言語や計数能力だけが知能ではない〜 (教育メディア団体 Learners High主催)

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はじめに 

 皆さんは「国語」と聞いた時、どのようなイメージを持たれるでしょうか。恐らく、多くの方は「国語は眠い、つまらない、何の役に立つのか分からない……」という印象を持たれている、あるいは持たれてきたと思います。私自身も、文法中心の古典、解説やテクニック中心の現代文の授業を受けてゆくうちに、いつの間にか国語への興味が薄れた苦い経験があります。

 「解法さえマスターすれば、現代文は満点が取れる!」「古典はとにかく暗記するのみ!」なんていうフレーズも、頻繁に耳にしてきました。そのような国語の授業の中で、果たしてどれだけ言葉への興味関心や「学びに向かう力」、「人間性」が育まれるのか、長年疑問に思い続けていました。

 そんな中、京都芸術大学副学長であり、言語学習のエキスパートでもいらっしゃる本間正人先生から、「MI理論」についてご教示頂き、それならば国語教育と組み合わせてみようじゃないかということで、この度レクチャーを賜りました。

 以下、講演・アクティビティーの内容をご紹介していきたいと思います。本間先生の多方面に渡る博学卓織なご知見が凝縮された、非常に濃密な記事となっておりますので、ぜひ最後までお読みください!

※☆マークは実際に行ったグループ・アクティビティーの内容を表しています。

1. MI(Multiple Intelligences)理論とは?

 そもそもMI理論とはなんでしょうか?教育現場においては、あまり耳にしない理論ですが、実はこの理論、ハワード・ガードナー博士が開発なさった、アメリカの教育界においては超絶有名でトレンディーとも言える理論なのです。その内容とは、人間には8つの知性(Intelligences)が備わっており、それぞれの人には心理学で言うところの優位感覚、つまり得意・不得意な知性があるというものです。その8つの知性の具体的な内容とは、

MI理論 8つの知性

① Linguistic-Intelligence(言語的知性)··· 言語に関する知性

② Logical/Mathematical-Intelligence(数・論理的知性)··· 数理的・論理的思考に関する知性。

③ Spatial/Visual-Intelligence(空間的・視覚的知性)··· 空間把握や視覚情報処理力に関する知性。

④ Bodily-Kinesthetic-Intelligence(身体的知性)··· 身体・運動機能に関する知性。

⑤ Musical-Intelligence(音楽的知性)··· 音楽(絶対音感など)や聴覚機能に関する知性。

⑥ Naturalistic-Intelligence(自然・博物学的知性)··· 周囲の自然や、博物学的思考に関する知性。

⑦ Intrapersonal-Intelligence(内省的知性)··· 内省的・哲学的思考に関する知性。

⑧ Interpersonal-Intelligence(対人関係的知性)··· 対人関係の構築・コミュニケーションに関する知性。  

です。

 教員が、「いつの間にか自分の得意なスタイルで40人の児童生徒に教えている」という現状があります。ですが実際には、個々人によって向いている学習スタイルは、まさしく十人十色です。50分、60分という授業時間の中に、様々な「種目」を入れて授業を展開することは、子どもたちの学習意欲を高め、学びに興味を持たせるという意味においても、大切なことであると言えます。

 なお、どの力が得意/不得意だからと言って、特別に優れている/劣っている、ということではありません。あくまで「自分はどの力(分野)に長けているのか」を把握する指標となる、ということです。

 類似した理論に「NLP理論」というものもあり、これは視覚・聴覚・身体感覚・言語感覚の4領域に分類されています。MI理論は、それをより細分化したもので、その分多面的に力を見ることができます。

 これまでの学校教育においては、「個人主義モデルの競争原理」が重視される場面が圧倒的に多くありました。ですが実際に社会に出て現場で働くことになった時には、チームで協力体制を作り目標を達成することの方が重視されます。ですから、これからの学校教育も、必ずしも正解があるわけではないテーマについて、「これ、いいね!」と全員が思えるようなものに向かって、チームで一体となって取り組むという活動も積極的に取り入れることが不可欠になります。そしてそこに、紙媒体・文字情報以外の、非言語的情報も取り入れてゆくことも、現代の知識基盤社会・高度情報化社会で学ぶ上で必要不可欠となります。MI理論に基づいて、個々人が自身の力を把握し、それらを持ち寄って一つのプロジェクトを完成させるという学びは、非常に楽しいと思うのですが、いかがでしょうか?

☆ 自分の一番得意な力はどれだと思う?
 ここで、グループに分かれ自分が「これ!」と考える最も得意な「Intelligence」について話し合ってみるという一つ目のアクティビティーが行われました。私は、幼少期から常に自問自答して考え込む癖があったので「Intrapersonal-Intelligence(内省的知性)」を選択しました。全員が同じものになったというグループはなく、ここからも一人ひとりの得意分野・得意な力は異なっているということが分かります。繰り返しますが、決して「どの力が優れている/劣っている」という問題ではなく、あくまでその人の持つ「傾向」なので、先天的に備わっている場合もあれば、その後変わってゆく可能性も十分にあります。柔軟に考えることも必要かもしれません。

2. 国語教育をMI理論に当てはめてみよう!

 それではいよいよ、本題に移っていきたいと思います。それぞれの力・知性ごとに活動を対応させながら、一つずつ考えてみましょう。

① Linguistic:Word-Wide-Learning(ワードワイド・ラーニング)

 国語の基盤とも言える、言語的な力を、枝葉が広がるようにどんどん広げてゆく、という意味です。ここは様々な活動が考えられますが、今回は2つのアクティビティーについて、ご紹介していきます!

☆ 同音異義語の漢字を、できるだけ多く書こう!  
 グループメンバーで知恵を振り絞り、メモをとりながら可能な限りたくさん書き出し、後ほど全員でどんな漢字が出たか共有する、というものです。今回のお題は「コク」と「シン」でした。和気藹々と、皆で脳内検索しながら書き出すプロセスが、とても楽しかったです!どのような漢字が出たか全員で見せ合う場面では「あ〜!それもあったな〜!」と悔しがる声や「おぉ〜!そんな漢字も思いついたんだ!すごい!」という感嘆の声など、色々な反応が見られました。

 また、これは漢検の対策にもなります。今回はグループで行いましたが、「今日は『セイ』でやろう」というようにテーマを設定して自分一人で取り組むこともできます。漢検の問題集を解くよりも楽しいですし、何よりアウトプットの練習にもなります。

☆ 新作漢字を発表しよう!
 先ほどと同じメンバーで、今度はまだ世に出たことのない新たな漢字を考案するというアクティビティーです。私たちのグループは、「モチベーション」と「イクメン」の漢字を練り出しました。他にも「スマホ(iPhone)」や「AI」、「Facebook」、「テレワーク」、さらには「∞」などなど、「ありそうでなかった漢字」から「そのまま会社のロゴにできそうな漢字」まで、とても素敵な新作漢字が出揃いました!

 個々の創造性が存分に発揮されたアクティビティーでした。

 これらのアクティビティーには、グループで協同して学び合う「⑧Share-Learning(シェア ラーニング)」(後述)の側面もあるように思います。一人で黙々と学ぶことも大切ですが、同様に複数人での学びを通して言葉を体得することも大切なのだと実感することができました。

 もう一点、私の個人的な見解を付け加えますと「好きな作家の全集を読む」という目標を立てることも、絶大な国語力の向上が期待できるのではと考えています!国語力だけでなく「人文力」も錬磨されてゆくと思います。

② Logical-Mathematical: Critical-Learning(クリティカラーニング)

 論理的・批判的思考力の部分です。近年の国語においても、「批判的思考力の育成」は非常に重要視されています。

 最も身近に実践しやすいものは、「歌詞にツッコみながら歌ってみる」です!有名な「サザエさんの歌」を例にとってみましょう。

 「♪お魚くわえたノラ猫♪」→そんなの盗まれたのかよ!

 「♪追っかけて♪」→どこまで行くの?

 「♪裸足で♪」→靴どうしちゃったのさ?

 「♪駆けてく♪」→歩いちゃ間に合わないわけ?

 「♪陽気なサザエさん♪」→それ、陽気な話かなぁ?

というように、歌を歌うたびごとにツッコミを入れ、コメントを差し込む。こうしたトレーニングを入門編として、そこからあるテーマに対し自身の立場を明確にしてディベートを展開するというように、段階的に批判力を磨いていきます。

 そして、本の読み方を教え、時には教員も生徒と共に探究することで、書物を批判的に読み、内容を再検討するとはどういうことなのかを徐々に体感させるというやり方もあるように思います。

③ Spatial/Visual: Visual-Learning(ヴィジュアラーニング)

 具体的なもので最も分かりやすい方法は、動画や画像学習です。近年では、英語の授業においては積極的に映像学習が行われていますが、なぜか国語の授業ではあまり普及していません。映像や動画とある言葉の意味・解釈とを結びつけることは、言葉の学習において非常に重要です。

 特に文字情報の塊である古典にこそ、こうした視覚ツールを活用した手法を取り入れてゆくことが、子どもたちの関心を惹きつける上で大切です。例えば、新作落語や講談、浄瑠璃、歌舞伎の映像から、古典独特の表現・言い回しを覚えることは、言語生活レベルへと昇華する上で、非常に効果的です。

 さらに「朗読を聴いて、心に浮かんだ心象風景を描いてください!」というワークも取り入れてみると、鑑賞教育との連携も図ることができます。今回は、実際にベテランの高校国語教員の方に、美しいバスの低い声で島崎藤村の『椰子の実』を朗読して頂きました。子どもたちの内面を、文章からだけでなく絵からも学ぶことができると、多面的な生徒理解(アセスメント)に繋がると考えます。

 さらにここから古典教育の新たな可能性を見出すことができました。まだ古典の単語や文法もよく分からないままに遥か大昔の文学へと誘われても、子どもたちは戸惑ってしまいます。さらにそこから単語や文法を覚えることを強制されれば、古典への興味は一気に萎んでしまいます。明治期以降の近代の口語的作品を入門として、近世文学・中世文学・中古上代文学と辿ってゆくという古典の学習スタイルについて、今後より深く掘り下げられそうです。

④ Bodily-Kinesthetic:Perform-Learning(パフォーマラーニング)

 身体的動作、つまりパフォーマンスによって学習効果向上を図るというものです。具体的には、演劇教育や朗読・素読活動といった活動を通して、言葉を身体に染み込ませ、言葉の「息」を体感させるというものだと言えます。特に素読は幼児教育においても高い効果が発揮されることが近年の研究結果で明らかになってきており、圧倒的なインプット・アウトプットの量によって、国語力を大幅に底上げすることができます。

⑤ Musical: Musical-Learning(ミュージカラーニング)

 子どもたちの音楽・聴覚的知性を充分に活用しつつ、言葉をリズム感と共に体得させてゆくことを目指したものです。近現代詩や和歌といった韻文の暗誦、さらに音楽教育と連携し歌の歌詞を解釈することなど、様々な活動が考えられます。卒業式の歌として広く知られる『仰げば尊し』は口語訳なので、古典の学習にも最適です。再度歌詞の言葉や意味を噛み締めることを通して、さらに自らが発する言葉に躍動感を持たせることができると考えます。日本の古典文学が口承文学から始まったように、琵琶法師が『平家物語』を歌うことで語り伝えたように、ボブ=ディランがノーベル文学賞に選ばれましたように、昔から音楽と言葉は切っても切り離せない関係にありました。国語においても、その事実が見直され、音楽的感性との連携を図るべき時が来ていると考えます。

⑥ Naturalist: Naturalistic-Learning(ナチュラリスティックラーニング)

 自然科学や博物学と言葉とを、より関連づけることを目指すものです。自然については、例えば、花や草木の名前といった、身の回りにある自然物について図鑑等で調べ、さらに和名を覚えるなどが考えられます。博物学については、日常の学習において紙の百科事典を積極的に用いる、などです。最近では電子媒体での百科事典サイトも増えています(Japan Knowledgeなど)が、やはり紙媒体の事典の使い方にも慣れておくことで、より興味の幅が広がるように思います。何より百科事典は古今東西から収集された情報の宝庫ですので、知的好奇心・知識欲が刺激され活性化されること、請け合いです。

⑦ Intrapersonal: Self-Explore-Learning(セルフ・エクスプロア ラーニング)

 「自分自身を探検・探究する」という意味を込めて、このような名称になっています。活動内容としては、日記やメモ、マインドマップ作成といった思考ツールの活用、さらに俳句や小説執筆といった創作活動も含まれます。せっかく国語の中で俳句や小説文について取り扱うのですから、ただ読解するだけでなく、それらを実際に創ってみることで、自己理解が深まるのみならず、創作者としての考え方も知り、体験することができます。内省の深化と言語力の発達は、対をなしていると考えています。

⑧ Interpersonal: Share-Learning(シェア ラーニング)

 一つのことについて複数人で探究し、意見を共有し合ったり、異なる意見でも互いに傾聴し合ったりすることを通して、最終的には止揚することを目指す「協同的学び」を展開するという意味を込めました。最も実践が容易なのは「しりとり」で、相手の言葉に「ああ、そう言えばそういう言葉もあったな」と膝を打ったり、「あの人、さっきから食べ物に関する言葉ばっかりじゃん!」と、人によって引き出す言葉のジャンルが異なることに面白がったり、色々な楽しみ方が可能です。その人の性格が現れやすい遊びでもあるので、発見学習的な側面があり、アウトプットにも最適です。場合によっては、「〇〇語以上」や「〇〇に関すること限定」など、何か縛りを入れることも有効ですね!

☆「春・夏・秋・冬」について、1分間スピーチをしよう!
 4〜5人のグループに分かれ、必ずどの季節も入るように一人ずつ季節を選び、1分間スピーチをするというアクティビティーを行いました(5人の場合、2人は同じ季節についてスピーチします)。基本的に話す内容は自由だったのですが、グループ毎に、音や地域、色など、様々な視点から季節について語っており、とても興味深かったです!
 さらにこのアクティビティーは、例えば『枕草子』の導入としても最適です。これをアイスブレイクとして行うことで、清少納言の存在を身近に感じてから始めるのと、いきなり「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて……」から入るのとでは、その後の学習への向かい方が全く違います。ほんの少し湿らせるだけでも、その後の吸収力が抜群に進む様子から、先生は「濡れタオルの理論」とお呼びになっていました。

 私が最も衝撃を受けたのは、「国語には”Speaking”の学習が驚くほど少ない!」という先生のお言葉でした。長年国語の授業に対して抱いていた違和感はこれだったのかと、霧が晴れてゆく心地でした。よく知られているように、英語に関しては「英語4技能」(Speaking・Writing・Reading・Listening)の重要性が謳われています。しかしどういうわけか「国語4技能」については、実践している学校や塾はいくつかあるものの、未だ大々的に打ち出されていないのです。「話す・聞く」「読む」「書く」領域は従来からあるのですが、それぞれが独立している傾向が強く、「言語は、4技能をフル活用して初めて習得できる」という概念が、英語に比べ希薄です。今後、この「国語4技能」について、本格的に検討していきたいと考えています。

終わりに

 以上、「MI理論と国語教育with本間正人先生」のレポートをお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。国語教育のイノベーションには、「無限大の可能性」が秘められており、やり方の工夫で、いくらでも楽しく面白く、子どもたちが「国語大好き!!」と言ってくれるような授業は、それこそ「無限」に作ることができます。その土台としてMI理論をしっかりと位置付けることが、新たな国語教育の開拓に繋がっていきます。

 もちろん、MI理論は「全てを解決してくれる万能な理論」ではありません。そもそもガードナー博士の「Intelligence」の定義があまりに広汎であること、確たる科学的証拠に乏しいこと、それぞれの「Intelligences」は完全に平等であるとは言えないこと、新学習指導要領の目的や理念に必ずしも合致しない部分があること、等々、考慮すべき課題は山積しています。ですが、21世紀の混沌とした現代で、子どもたちが健やかに生き、彼らが将来より良い社会を創ってゆくためには、従来通りの考え方・方法では不十分だと考えます。従来の良いところはそのままに、改善すべき点は新たな理論を取り入れて磨き上げてゆくということを試みるべき時が来ていると感じます。

 従来当たり前とされてきた「国語」「教育」の考え方・やり方を一度解き放ち、それ以外のあり方があるのではないかという「無限の可能性」を引き出し探ってゆくために、私自身も今後さらなる研究と研鑽を積んでいきます。

 最後までお読みくださった読者の方、そしてこの度この充実した素晴らしい学びの機会を設けてくださった本間正人先生、みやび様、司会を勤めてくださった山本ミッシェール様、このセミナーに参加してくださった皆様に、深く感謝申し上げます。本当にありがとうございました!

(執筆:ブラッドリー桜ミシェル @burasaku_hibun)


執筆者:ブラッドリー桜ミシェル

【Profile】
筑波大学 人文・文化学群 比較文化学類3年

Facebookブラッドリー桜ミシェル

【Comment】
 国語教育について学び始めたばかりの者でも、常に問題意識を持ちつつ、自身のそれまでの学びを活かせば、新たに何かを生み出せる可能性があるのだということを、この度の一連の出来事を俯瞰して実感致しました。先生や皆様から、多くのご教示を頂くことができ、私にとって大学で最も充実した月だったように思います。この度のセミナーを、新たな始まりだと捉え、「精神的向学心」のマインドで、今後も磨き続けてゆきます。

 

 

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。