9月入学の概要・是非 〜変わりゆく日本の教育〜

今回は、現在話題奮闘中である9月入学について、その概要と歴史を踏まえつつ、各国の入学時期比較や各有識者の方々の9月入学に対する是々非々の意見を記事にしたいと思います。

COVID-19の影響で9月入学に移行するか否かの論争が各地で繰り広げられましたが、結果的に安倍首相や官邸内の陣営は今年中の実施を断念しました。

しかし、先日のAbemaTVが制作する人気番組『NewsBar橋本』の中で、安倍首相が「拙速な実施ではなく、腰を据えて議論していきたい」という趣旨の発言を為されており、今後は中長期的なスパンを確保して、9月入学に関する深い議論が推進される事が明示的となりました。

よって、ある程度世間の9月入学論争が鎮静化した現在、もう一度落ち着いて9月入学を再考してみる機会となれば幸いです。本記事をキッカケに、あなたも9月入学の是非について深く考えていきましょう。


目次

9月入学とは

明治期は9月入学が主流だった 〜9月入学の歴史的変遷過程〜

世界各国の入学時期比較

9月入学のメリット・デメリット

教育の質を改善する事が大切なのでは?

9月入学 – 総括


①9月入学とは

9月入学とはその名の通り、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の入学時期を、現状の4月から9月に移行する事です。

9月入学に関する議論が盛り上がった背景としましては、今年(2020年) 2月27日に、COVID19の影響を受け、感染症対策本部で安倍晋三首相が小中高等学校並びに特別支援学校に対し、3月上旬以降から春休み期間までの休校要請を発した事が挙げられます。

そしてその約1ヶ月後に、東京都立日比谷高校の男性生徒がTwitter上で「学期の始まりを9月に変更して、私たちの学校生活を守ろう」という趣旨の投稿をツイートし、全国的に9月入学に関する議論が活発化しました。

本記事後半でも紹介致しますが、現在も尚、各界の識者が集って声明を発表しており、大変ホットな議論が行われています。

②明治期は9月入学が主流だった 〜9月入学の歴史的変遷過程〜

実は、明治時代初期の日本では、欧米諸国、特にドイツや英国のデジュールスタンダード(正式的標準)に合致した9月入学が一般的だったのです。

ではなぜ、現在の様な4月入学に移行されたのかといえば、その理由は大別して2つあります。

(1)徴兵制の改正

1986年に徴兵令が改正され、徴兵対象者となる満20歳以上の男子の出兵届日程が「4月1日」に変更されたのです。そして、この事実を踏まえ、当時の高等師範学校(現 筑波大学)が、日本で初めて4月入学制度を正式に採用しました。

(2)国家会計年度の改正

徴兵制の改正が実施された時期と殆ど同じ時期に、当時の政府は、会計年度を嘗ての7月~次年度6月方式から、4月~次年度3月方式に変更しました。それにより、師範学校等の学費を公費で負担していた学校群にとって都合が合う様に、4月入学の実施が助長されました。これは、当時の学校群が下した「事務的な判断」と言えるでしょう。

他にも、明治初期の日本は「富国強兵・殖産興業推進」を掲げ、全国的な工業化・産業化運動が活発化しており、お雇い外国人と呼ばれる特定職務を有した外国人専門家を国内に招聘する誘致活動があったので、その外国人専門家を招聘するには9月が最良であったという意見もあります。

現在は、日本の気候による温度差などに鑑みて4月入学が導入されたという議論も盛んですが、この議論に関しては、未だ実質的な事実証明が為されていないため、不透明だと云われています。

③世界各国の入学時期比較

では、世界各国の入学時期はどうなっているか俯瞰してみましょう。

1月 – シンガポール、南アフリカ

1月末〜2月初め – オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル

3月 – 韓国、アルゼンチン、ペルー

4月 – 日本、インド

5月 – タイ

6月 – フィリピン

8月 – スウェーデン、デンマーク、フィンランド

9月 – アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、ロシア、中国

10月 – ナイジェリア、カンボジア

正直な所、一見すれば、世界各国の入学時期は非常に分散されており、「世界標準は9月なんですよ」と主張する人は「アメリカやイギリス=世界(米国・英国第一主義)」と考えている可能性すら窺えます。しかし、事態はそれ程単純ではありません。

では、入学時期比較に関して、より一層詳細に分析する為、把握可能な範囲のみになりますが、各国の入学時期設定における狙いや、その目的を見ていきましょう。

欧州はなぜ9月(付近)入学が多いのか

一説には、農業のスケジュールに関連すると言われています。

欧州では、歴史を顧みても、基本的には7〜8月に農作業の集中的な作業が行われ、夏(summer)にその比重が掛かります。前年の秋季に植えた種を収穫する時期でもあり、家畜を飼育している農家においても干し草を生成する必要があるのです。

よって、政府が戦略的な意向として「農業が落ち着く時期になれば、一気に多くの学生が入学出来るだろう」と目論み、9月入学導入を試み、その時期的な名残が今も継承されていると結論付けて問題ないでしょう。

気候に合わせた調整法が一般的

ニュージーランドやオーストラリアに関しては、南半球に位置するという地理的な関係性が考慮されている蓋然性が高く、入学時期の世界比較を鑑みれば、その他の国々も一般的には気候に合わせた形態が採用されていると言えます。

しかし、地理的影響を熟慮する国々が多いと仮定した場合、先程挙げた「日本は、その気候が影響して4月入学になったのでは?」という主張の一理あるのかもしれません。しかし、各国の入学時期に関する詳細データは現時点でそこまでの文献が公表されていないので、完全に詳らかにする事は不可能です。

ですが、「世間で謳われている程、9月入学が世界標準ではない」という事実を知る事は、今後の9月入学に関する議論を遂行していくうえで極めて枢要な要素となるでしょう。

④9月入学のメリット・デメリット

一般的に挙げられる9月入学のメリットとデメリットを比較し、自分はどちらに賛同するか熟考してみましょう。

メリット

1.国際標準に適合し、留学の難度が下がる

 米国やイギリスの大学・学校に留学したい場合、嘗ての制度では半年程のブランクを過ごす事になるが、9入学に調節する事でスムーズに海外留学を行う事が出来る。

2.出来なかった学校行事が実施可能になる

 今回の騒動で実施が遅れていた行事群を、9月入学に移行する事で実施出来る様になる。

3.従来の受験期(冬季)において生じた感染症リスクや交通障害を緩和出来る

 従来の受験時期は基本的に「冬」なので、9月に移行する事で、冬に流行するインフルエンザや大雪による電車の遅延等を防止する事が出来る。

4.学習遅延を補填しやすい

 COVID19のは急的な感染拡大により、一生休校が実施される中、学校に通えなかったり、オンラインの学習環境が整備出来ていない人もいる為、学習遅延を補填する意味での時期調整は有用に働く。

デメリット

1.企業の入社時期と合致しない

 企業に入社する時期は従来通りの4月である場合、8月に卒業する形態であれば、半年間のブランクが生じる。

2.入試、学校行事、教員採用等、大々的なスケジュール変革が必要

 教育改革を実施する際は多分な労力を必要とするが、9月入学案が可決される事で、スケジュール調整の面で多大な負担が掛かる

3.教員数の不足と待機児童問題の加速化

 幼稚園卒業生の場合、小学校に入学するまでの期間を待機する必要が生じ、待機児童問題が加速する。

 加えて、幼稚園に一層長く在籍する幼稚園性が増えれば、対応する教職員が必要になる。

4.受験時期が順延になった場合、授業料、予備校代が増額する

 予備校や塾に通って入学試験対策をしている学生にとって、その経済的補完は容易ではない。授業料の負担が大きくなる公算も強い。

明治初期の一時は9月入学を採用していたものの、日本は150年余りが経過した現在まで長年「3月卒業・4月入学」を実施してきた為、各機関(幼稚園、保育園、企業)との連携が困難な傾向にあると言えます。

⑤各有識者の意見・主張・対立構造の明確化

ここで、教育界に関わる主要な有識者・著名人等の9月入学に対する意見を見ていきましょう。

先に付言しますが、決して各々の対立関係を作り出したいのではなく、あくまでも現実に記事やSNS上で公表されている各識者の意見を要約しております。

賛成派(部分的賛成を含む)

尾木直樹さん 教育評論家

→本年度を来年8月まで延長して、「9月入学」「9月新学期」を実現すべきだ。現行制度で押し進んだ場合、最も被害を被るのは、今年度の大学入試を控える高校3年生。特に地方は学力低下が著しく、今の状態では試験の公平性が担保不可能。ピンチをチャンスにする思考で、グローバル化の為にも9月入学を取り入れるべき。教育は費用対効果のみで考えてはいけない。教育哲学も必要である。

藤原和博さん 教育改革実践家
→部分的に賛成。東大のみ9月入学を実施し、高校以下の追随は不要。 しかし、3ヶ月間の学校閉鎖を取り戻す為に9月入学を導入してほしいという意見ではない。3・4月例年行事が多分にあるので、数十日でカバー可能。だが、9月入学によって、オックスフォード大学やハーバード大学では一般的になっている「ギャップターム(ギャップイヤー)」と呼ばれる半年間の隙間が生じるので、人生の方向性を吟味する事が可能になる。様々なチャレンジが出来るので、大学では何を学ぶべきなのかが明確化され得る蓋然性が高い。なぜ東大に限定するかというと、嘗ても9月入学に関する議論を言い出した発端でもあり、ナンバーワンがリスクを取る姿勢を見せていく事が肝要だからである。

工藤勇一さん 横浜創英中学・高等学校長

→9月入学自体には賛成であるが、今回の「COVID19の影響で遅れているから9月入学へ」という意見には反対。COVID19がいつ頃収束するかという見込みが確定しない中で、9月入学だけで解決するのは極めて難しい。教育改革を成すには、現場の負担がかなり掛かる。しかし、経済活性化という観点では、9月入学に移行する事で増数する海外からの留学生(インバウンド)は必要になる。

反対派

松田悠介さん Crimson Education Academy 日本法人代表取締役

 →9月入学にすれば必ず海外への留学生が増数する訳ではない。むしろ、語学力や奨学金制度についてを議論すべき。欧米より学費の安価な地域への留学者数が増加している現状もあり、必ずしも欧米基準を採用する必要はない。そもそも海外の学生が日本で学ぶメリットをあまり感じていない。

妹尾昌俊さん 教育研究家

 →既に教育現場は問題が山積みで、9月問題を議論している暇はない。教育格差や学習の遅延、在宅学習が困難な生徒や学校授業の感染リスク、受験生へのメンタルケアなどの課題は山積みである。

中室牧子さん 教育経済学者

 →教育に魔法の杖はない。我が国の教育システムを国際標準に合致させるという目的においては、今回浮上した9月入学案(入学を早めるのではなく遅らせる案)は不適当である。必ずしも9月入学でカバーする必要はなく、他の手段も検討すべき。確かにグローバルスタンダードに標準を合わせる観点では賛同だが、9月に「遅らせる」という案には反対。

ネット上の声

https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20200618-OYT1T50139/

このデータ(Twiiter分析データ)は、読売新聞がNTTデータと共同で、安倍首相が全国の学校に休校を要請した2月27日〜6月10日までの105日間を対象に、生徒や学生の約1万8000件のツイートを分析した結果です。
※Twitterがネットの全てでは無いという意見も重々承知ですが、言論プラットフォームとしての利用者数という観点ではTwitterがその大半を包容すると予測した為、掲載致します。

初期の段階では、賛成者数が反対者数を圧倒的に上回っていますが、議論内容が整理され、日本教育学会が「拙速な決定をしないよう求める」と声明を発表した段階から反対派数が賛成派数を超越しています。しかしその後、政府・検討チームの初会合が実施され、文部科学省が導入に向けた案を示した時点からは賛同派数が増加し、最期の6/10に至るといった流れです。

公的機関が声明を発表した期間は議論が不当していますが、6/10時点では議論自体の本質がTwitter利用者に理解され始め、鎮静化しているという具合でしょうか。

いずれにせよ、賛同者数と反対者数の割合が中期的に比較しても大差ない事実が窺えたと思います。

⑤教育の質を改善する事が大切なのでは?

ここまで、9月入学に関する数多くのファクターを解説してきましたが、本メディアLearners Highとしては「教育クオリティが最大の問題であって、時期の変更が及ぼし得る社会的紅葉は極めて矮小である」と論じたいところです。

実際、9月入学に反対する論者が主張している内容として「時期的な側面以前に、日本人学生の英語力問題という障壁があり、時期だけに限った議論を行い、時期変更のみで日本の教育がグローバル化すると考えるのは稚拙である」という主張が頻見されますが、その意見は今回の9月入学の議論に関して、極めて枢要な位置付けになるでしょう。なぜなら、どれ程時期が調整されても、対外に出向ける人材の英語力が不足していては、意欲だけが旺盛な状態に留まってしまい、現実的な留学を視野に入れにくいからです。

加えて、現状の日本的教育における実態(画一的・形式的平等主義等の、諸外国から評価され得る教育的価値を保有しないと推察される実態)を鑑みた際、むしろ海外諸国に日本の教育を詳らかにする事で、日本的教育(初等・中等・高等問わず)の時代錯誤性や数多の欠陥が明確化されてしまい、大いなるバッシング・批判を受ける蓋然性も高まります。つまり、明治期から4月入学という世界的に特殊な入学時期を長期的に維持してきた日本ですが、その教育内容はもはや先進的とは言えず、今まで長期の間4月入学だったからこそ「教育クオリティの低下」が対外的に露見されずに済んだとも言えるのです。

並びに、教職員の長時間労働問題が浮上する中、従来の日本国内入試に加えて併行的に海外諸国への出願書類準備も実施するとなると、現システム上の教員は悲鳴を上げるでしょう。

⑥9月入学 – 総括

今回、COVID19の世界的大流行の中で、日本においては「9月入学」というトピックが多くの方々から大々的に発信され、数多くの議論を呼びました。メリットやデメリット、有識者の意見等、様々な側面から9月入学を論考する事が可能です。一時期の感染症流行によって9月入学の議論が過去に類を見ない程盛り上がった事は良い事ですし、今後も安倍総理が表明されている様に「腰を据えた議論」が肝要になるでしょう。

しかし、忘れてはならない事は「誰の為の教育か」という客観性と(裏腹に見えますが、極めて重要な)当事者意識、教育の継承性や持続性です。定量化が困難で、定性的になりがちな教育だからこそ、常々困難な問題が多々浮上しますが、今回の9月入学論争を機に、時期的な問題だけでなく、日本社会における教育の位置付けや本質的意義を議論する事もまた、私達が享受する日本の教育を、卒近代・脱近代をベンチマークとして一新していく為に必要な事と言えるでしょう。

(文責:京坂 雅 @miyabi_media)

参考文献・記事

・https://style.nikkei.com/article/DGXKZO13025850X10C17A2W02001/
・https://benesse.jp/kyouiku/201504/20150406-4.html
・https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/10/news014.html
・http://www.kosuke-ogawa.com/?eid=2053
・https://peraichi.com/landing_pages/view/stopseptemberadmission
・https://www.fnn.jp/articles/-/43977
・https://newspicks.com/news/4910056/body/
・https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/202005/20200518_73019.html
・https://www.lacicu.co.jp/archives/3406

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miyabi_kyosaka
教育実践キュレーター。慶應義塾大学在学中。NPO法人日本教育再興連盟ROJE所属。読売新聞学生記者。日本若者協議会所属。某 AO入試専門塾講師。N高等学校出身。|「未来は予測するのものではなく、この手で創る」をモットーに圧倒的行動で教育を一新しようと、教育ジャーナリズムの活動をしております。