『社会の関心と関与で教育は変われる』〜探究学習・PBLをどう実現するか〜 Learn by Creation 竹村詠美代表 【2】

COVID-19が世界中で急激な感染拡大を見せる中、学校の先生はどう対応すれば良いのか、どの様なICT環境を構築するべきなのか2011年に世界中のイベントが集まるプラットフォーム『Peatix.com』を共同創業者としてローンチし、2019年からは、教育者や保護者、子どもたち、起業家、クリエイター、など社会で創造的実践を行う人たちとこれからの学びを考える大型イベント『Learn by Creation(ラーン・バイ・クリエイション)』を主催されている、竹村詠美代表にお話を伺いました。

前回の第1回インタビューでは、各学校現場のオンライン化やICT化、ICT教育おける日本と海外の比較、オフラインとオフラインのハイブリッド型教育などについて、竹村代表のご意見を伺いました。

今回の第2回インタビューでは、竹村代表が先陣を切ってその重要性を主唱されている「探究学習」や「PBL」について具体的にお伺いします。さらに、近年勃興してきている新しい入試のスタイル「総合型選抜(:AO入試)」についても、詳しくお伺いしていきます。


本連載一覧:
『ポスト5Gの世界まで見据えたICT教育を』〜教育の4象限を考える〜 Learn by Creation 竹村詠美代表【1】


Contents

探究学習やPBLでは、社会と接続した学びを通して「自分を知る」ことができる

受験生の間で格差が広がる中、大学側の積極的な対応策が求められている

日本社会は教育に対して関心が薄すぎる 〜「学校の外」と触れ合う機会を増やそう〜


探究学習やPBLでは、社会と接続した学びを通じて「自分を知る」ことができる

ー 今回の有事で、オンライン教育の様々な利点が顕在化しました。そして昨今は「単一的な受験勉強だけが全てではない、もっと多様な学び方があるはずだ」という風潮も現出してきています。そのため、探究学習などに関しても生徒たち各々で「やりたい人だけが自由にやる」という潮流に移行すると考えて問題ないのでしょうか。

竹村代表 従来の受験に特化した詰め込み型学習であれば、従来の教科学習に、アダプティブラーニングなどレベルや進度を個別化したテクノロジーを活用することで認知能力を中心とした学力はつくでしょう。しかし、これからの複雑形で正解の見えにくい社会で活躍するためには、認知能力だけではなく非認知能力も育む必要があります。そこで探究的な学びやPBL (Project Based Learning) といった深い学びの体験から人間として総合的に成長する学びが注目されているのです。

探究学習やPBLは、子ども達が高い関与度で主体的に学ぶことで、従来の学びで線引きをしがちな単元の目標を超える環境を提供します。その中で、「社会と接続した学び」が実現できれば、さらに子ども達は「将来自分はどうしたいのか」という事を考えるきっかけにもなります。

私たちの頃は就活まで社会との接点がほとんどなかったので、本当に世間知らずでした。いきなり就活の説明会に出向いて「へぇ。会社の人たちは毎日スーツを着ないといけないんだ」というような感じです。そのように、今までの日本の考え方は、大学に入ってからそういうことを考えれば良いじゃん、という部分が大きかったのです。確かに、高校ではキャリア教育があります。しかし、どの様なスキルを磨いて、その結果どの様に自己発揮や社会へ貢献していきたいかという事を経験を通じて考えるチャンスは少なかったと思います。例えば今大学ではインターンシップをする学生が増えていますが、中学生や高校生にもその様なリアルな体験機会がもっと与えられるべきだと思います。今までの日本では、決められた学びを習得することにフォーカスが強く、経験を通じて自分のやりたい事を探索するという事にそれほど力点が置かれていなかったのです。

その点、探究学習やPBLは、自分が試されるので結構しんどくて、正解がある問いを解くよりも実は大変です。仲間との協働も求められますし、PBLの場合は「どこまでできたら良しなのか?」という基準が1つではないので、完成度を高くするためには何度も試作品をつくり続けることが必要になります。ですが、そのようなスキルは世の中でどんなスキルに就業しても役に立ちます。微分や積分をどれほど知っていても、役に立たない職業は沢山ありますよね。

私はもともと『Mosty Likely to Succeed(これからの学びについて考える、有識者や学校取材をベースとするドキュメンタリー)』という映画の日本アンバサダーを4年間務めていますので、良質なPBL(Project Based Learning)はもっと広まってほしいなとは思っています。やはり、今まで続いてきた教科書や指導書中心の教育だと、どうしてもPBLは実行しづらくなってしまいます。ですが今回、オンラインが各学校に全面導入されたことで、教科書に限定されない学びの扉が開きました。第1ステップとしては素晴らしいことだと思います。

受験生の間で格差が広がる中、大学側の積極的な対応策が求められている

ー 探究学習やPBLに関連して、昨今の日本では総合型選抜入試(旧AO入試)が勃興してきています。ですが、現在は幸か不幸かオンライン教育が波及したことによって数々の格差(学習格差、モチベーション格差)が叫ばれており、総合型選抜はその多様な格差を一層と助長してしまうのではないでしょうか。例えば、探究学習に投資できる資金面の経済格差や、体験できる事柄に差異が生じてしまう体験格差などがあります。

竹村代表 そこに関しては、塾や民間教育機関が探究的な学びの中心となってしまっては解決しないでしょう。もちろん民間の力も大切なのですが、月1万円や15000円を支払って探究学習や社会と接続した学び子供に体験させてあげられる親御さんは限られています。総合型選抜自体が悪いわけではなく、学校教育を変えていくべきではないでしょうか。

総合型選抜自体が持つもともとの考え方は素晴らしいと思います。ただ、入試対策のできる塾に投資できるか否かという部分で、親御さんや家族間における経済格差が表出してしまう状況は残念です。例えば、High Tech High(アメリカ合衆国の幼小中高一貫の公立学校。真の公平な機会(Equity)を生徒に与える事を目標に教育を実践している)プロジェクト型学習に特化した学校ネットワークで、同校に通う生徒さんはプロジェクトを通じて体験からの学びを積み重ねていきます。高校2年生、3年生はインターンシップも経験する事で、学校で学んだスキルを試し、大学やその後どうしていきたいかについての解像度を高めることができます。96%の生徒が大学進学を実現し、カリフォルニア大学バークレー校などのトップ大学に進学した人も沢山います。

総合型選抜自体はもともと「受験者たちを、テストの点数という狭い尺度だけでなく総合的に評価したい」という考えから開始されました。ですが、迎え入れる大学側も実際に受験生の間で体験格差が生じてしまっていることに気付いた場合は、受験におけるプロセスの見直しだけでなく、受験までの学びの公平性について高校などと連携して解決に向かっていくべきだと思います。日本の大学はそのような「アウトリーチ(はたらきかけ)」がすごく少ないですね。総合型選抜を受けるうえで機会格差を実感している生徒を救いたいのであれば、もっと中学校や高校で無料授業などを開講して、体験格差を埋めるようなカリキュラムを提供すべきでしょう。

アメリカが必ずしも良いわけではありませんが、少なくとも財団やNPO法人で対応しようと試みている人たちはいます。例えば、以前、スタンフォード大学でAIを研究する女性が、経済的に恵まれない公立学校の女の子たちが、AIを利用して彼女たちの故郷をどう良くすることができるのかというプロジェクトが始動しました。最初はスタンフォード大学といくつかの大学で始まったのですが、今は50もの大学がタッグを組んでサマーキャンプを実施しています。そのサマーキャンプの参加者の一人は、彼女が住む農村地域の収穫をAIを活用することで改善したいという思いで参加していたそうです。

さらに、アメリカの大学の場合は「Divesity(多様性)」を前提的に重んじますので、そのプロジェクトに参加した彼女たちが大学に合格する確率はかなり上昇していくと言えるでしょう。全員を一気に救うことは現実的ではないですが、今の日本にはそのような成功ケースが少なすぎるのだと思います。

日本社会は教育に対して関心が薄すぎる ~「学校の外」と触れ合う機会を増やそう~

ー 確かに日本の大学は、数多の格差に対して「野放し」になってしまっている空気感が否めませんね。

竹村代表 そうですね。今の日本は、社会の教育に対する関心が薄すぎます。Learn by Creation を主催している理由もそこにあります。アフリカのことわざで「子どもをひとり育てるには愛を持った村中の大人が欠かせない」ということわざがありますが、やっぱり色々な人に可愛がられ、助けられて子供は育っていくものだと思うのです。そして、自分が何かを直接教えることができないとしても、寄付などの違う形もあるのです。孫正義さんの育英財団などの著名な支援機関はありますが、他の団体では持続可能な仕組みになりづらく、まだまだ足りていません。

日本はGDP当たりの教育投資額が先進国で最低レベルだと言われています。ですが、探究学習やPBLは先生にちゃんと投資しない限り、良いものは生まれません。以前聞いた話でも、ある県立高校で探究学習を狙って導入されたはずの総合学習の時間がマナーレッスンになってしまっているケースもあります。このようなケースがまかり通ってしまっていること自体が非常に恐ろしいことなのです。

この問題は、システムや財源の問題が非常に大くを占めています。それらは先生の資質の問題ではありません。特に「子供たちに幸せになってほしい」と強く思っておられる公立学校の先生方とは沢山お会いさせて頂きました。ですが、日本の教員は大学を出てすぐ学校の先生になられる方が大半なので、なかなか学校外と協働して新しい学びを導入するということが難しい状況があります。社会としての関心はまだまだ薄いですが、個人レベルでは子ども達の深い学びの体験づくりに貢献したいと考える学外の大人はたくさんいます。Learn by Creation などの学校外のイベントやワークショップを通して「学校外の人」と繋がり合うことで、リソースが限られた現場でも新たな学びに挑戦する活路は開けると思います。学内外が越境する関係性がより豊かになることで、子ども達の学びもより本質的で意味深い体験となり得るので、大人も従来の枠組みから少しはみ出してみる事をオススメしたいですね


次回は、竹村代表が現在注目している学校、子供達の「学びの選択肢(オプション)」を増やす方法、子供達の心理的な安全性を確保するために学校がなすべきことなどをお伺いしていきます。

(取材:角田雅治 @miyabi_media)
(デザイン:射落美生乃 @00trans_)

 竹村詠美代表 プロフィール

竹村詠美(Learn by Creation代表)

経営コンサルティングで国内外の戦略プロジェクトを経験後、アマゾン、ディスニーのネット事業などの日本経営メンバーとして、サービスの事業企画や立ち上げ、マーケティング、カスタマーサポートなど幅広い業務に携わる。2011年に共同創業した「Peatix.com」は現在27カ国、350万人以上のユーザーをもつ。創造性溢れるライフロングラーナーを育てる教育文化作りやSTEAM/PBL教育を中心テーマに活動中。Learn X Creation の発起人の1人であり、今回の事務局長を務める。Most Likely to Succeed 日本アンバサダー、Peatix.com 相談役、総務省情報通信審議会、大阪市イノベーション促進評議会委員なども務める。小・中学生二児の母。

Twitter@tokyopingu
Learn by Creation HPlearnx.jp
Future Edu Tokyo HPfutureedu.tokyo


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『新・エリート教育 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』

竹村詠美 (2020/7/23)(日本経済新聞出版)

【竹村代表 コメント】

今回私の過去5年に渡る国内外の先端教育現場の視察や調査を元に執筆した本を 723日に上梓させて頂く運びとなりました。
書籍は『新・エリート教育  ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』というタイトルで、これからのエリートは知識偏重型ではなく、心身頭のバランスが取れたクリエイティブ・リーダーであると提案させて頂いております。そして、クリエイティブ・リーダーを育む学びとして米国で広がっているホール・チャイルド・アプローチ(学習者中心の学び)のあり方や、広がり、取り入れるにあたっての考え方などについて幅広く紹介させて頂いております。ホール・チャイルド・アプローチ(学習者中心の学び)の方向性は、新学習指導要領で提唱している「主体的・対話的で深い学び』に沿っていることを解説し、具体的な選択肢や可能性を提案させて頂いております。ご参考までに目次はこちらです。https://bit.ly/3gWrK4A
本書は若手の先生達や行政の方、保護者、社会で教育に関心のある方々に手に取っていただき、深い学びを実践する現場としてのホール・チャイルド・アプローチ(学習者中心の学び)の必要性を海外事例の観点から伝え、先生もご尽力されている日本の学びの改革の一助となることを目指しております。

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